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2024年09月08日22:58

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「きみの色」を見て。〜やって来た、変えられないものを受け入れる平穏を破る転機〜

それこそ実体の無い「感情」だとかをキャラクターに起こして、子供から大人まで判り易く見せる「擬人化」手法が取りやすい事から、作り手の拘りよりも見る人に感情的な「贈り物」を差し出してくれるサービスを求められがちなアニメーション作品でありますが。平凡な一人の思春期真っ只中の女子高生の約一年に及ぶ心境の変化や成長といったものを、内面描写や過去のフラッシュバックに、日常描写や四季の移ろいをドラマ的要素の薄い出来事の中に落とし込んだこのアニメーションは、容易く「感動」させなくとも、徐々に社会との係わりが深まるなか、他者の輝きに比べて自分を卑下しがちな「あの頃」の感情を共感させる隙の無いビジョンで創り上げて、瞬きも惜しいほど丁寧に編み出された一篇でした。

本作の主人公のトツ子は冒頭はじめ事あるごとに聖堂室で、神学書「ニーバの祈り」の一節を引用して「変えることの出来ないものについて、受け入れるだけの心の平穏をお与え下さい」と祈る。彼女には、人が発する「色」を受け止める資質があって。それを自覚した幼い頃の映像では、如何にものポッチャリした幼児体型でバレエのバーレッスンに取り組んでいて。本編途中で、その時の更に詳しい事情が示されるのだけど。「ジゼルの「娘役」でソロを踊りたい」と、習っていれば普通に備わる目標なのだが。思っていれば容易く務められるものではなく、才能と努力が必要なのだけれど。高校生となって、当然バレェは続けてない。他者との比較による挫折の過去があって、自分には無い「輝き」を他者に感じて、それを「色」として認識していると私は見做しました。その裏では、自身の変えたくても変えようのない欠点が意識されていたのかも。

同級生のきみの放つ「青色」に惹かれていたトツ子は、自主退学した後彼女が働く古本屋をタマタマ突き止め、その偶然を取り繕うため取り乱した感情から、その店に居合わせた離島に住む男子高校生のルイを巻き込み、「三人でバンドを組もう」と口走ってしまうのだが。きみとルイの心の底で願うところにその思い付きの一言が触れたのか、二人の快諾を受けてトツ子らの高校生生活は転機を迎える。

通常考えられるのは、三人均等に内面信条を掘り下げるところだけれど。潔い事に、本作では、あくまでトツ子が物語の中心。きみとルイは彼女がそれぞれと接触する範囲でしか描かれない。故に、物足りなさを覚える方も居るかもしれないけれど。自分と違って、容姿も性格や才能も秀でていると見做している他者にも抱えている事情もあり。また、そんな自分でも他者に影響を与える事を出逢いを通して気付いて行く。物語のメインはトツ子が、自分を見つめ直す過程にある。

初期に手掛けた作品は見ておりませんが、「聲の形」から山田尚子監督を知って。脚本の吉田玲子さんと音楽の牛尾憲輔と組んで、素晴らしい作品を産み出されてこられました。中でも、高校の吹奏楽部を舞台にした「リズと青い鳥」での愛情とも取り違えそうな女子二人の関係性の描き方が、セリフだけでなく、情景とか二人の足取りのアップとか、実写に匹敵する示唆に溢れていて。トツ子ときみの間柄の変化も、特に説明的感情的セリフも無く、クリスマスプレゼントを選ぶ夜店や波止場に腰かける二人の距離からも伺えて。痒いところにも行き届くかの判り易い提示はない変わりに、想像を掻き立てます。

「聲の形」の冒頭では、The Whoの曲を引用して。音楽にも拘りのある山田尚子監督で、兄のお古のギターを操るきみの動さは、単純にカッコいい。3人のバンド活動も、上映時間中、尺はそれほど割いておらず、キャラクターの関係性を描く部分と、1年間のイベント事との絡みの中でバランスがとれている。けど、クライマックスに向けて、メインのオリジナル曲を創り上げるプロセスの挟み方は、「煽り」として絶妙なタイミングだった。

脇のキャラクターには、ベテラン声優を起用して。(ウチ1名は、マスコミ向けPR枠で。24時間テレビのマラソンランナーを務めた女性芸人が、起用されて心配でした。でも、普通に作品に溶け込んでいて、盤石の演出。) 対して、メインの3名は、若手俳優を起用しております。トツ子役の鈴川紗由さんが、ロトスコープ手法で実写から取り込まれたんじゃないかってくらいに、画と見事にシンクロされてました。先に書いた、古本屋できれいな「色」を発する二人を前にしての舞い上がりっぷりは、本心を悟られまいと取り繕うトツ子の必死さが現れて可笑しい。

音楽制作面を支え女子二人に持ち上げられるルイ君役の木戸さんも、絵柄を崩さない王子声色で良かったですが。きみの声を務める高石あかりさんは、実体の演者としては、3人中最も注目を集める存在で。会話では、抑揚を抑えたクールな喋り。ボーカル担当なので歌声も聴かせてくれますが、終盤での「想い」を秘めた渾身の叫び声は、こちらにも響きました。

忘れてならないのは、三人を見守るシスター日吉子役の新垣結衣さん。普段は目上ということで、毅然とした喋り声ですが、何故彼女らを親身になって見守って来たかが明らかになる、「ロックへの拘り」を熱く語るギャップがステージの盛り上がりの呼び水となりました。

持ち味を存分に発揮された山田尚子監督初のオリジナル作品でしたが、原作付きTV発の劇場版と違って、興行の難しさが現れた様子ですけれど、神木隆之介さんにも吹替え参加して貰ったらヒット確実だったかな。それは、冗談ですが。川村プロデューサーには、今後も監督のオリジナル作が見られるように尽力願いたし。

拙文にお付き合い頂き、有難うございました。
24.09.06 シネプラザサントムーン劇場��
24.09.01 シネプラザサントムーン 劇場��

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