タイトルに「劇場版」の断りがあるというのは、お察しの通りTVシリーズから続く映像化なのでありますが、それを知らずとも堪能出来ました。
通常の劇場版と違ってテレビ局を主幹とする製作委員会がバックに付かず、メディア戦略の常道から外れて実に放映から17年以上の年月が空いている。元となるTVシリーズの製作者達の執念と作品世界に見せられたファンによるクラウドファンディングを通じての支援の結実なのだけど、劇場公開に十二分に耐え得る作品個性の現れた映像表現と、一時間半を切る小気味の良い展開のうちにエンドロールに辿り着く。「一見さん」にも垣根の低い入り易さでもって、もはやアートと表して過言でない手の込んだ場面の数々を面白いとアッサリ消化してしまって良いのかと申し訳なさも覚えたりするけれど。カナダのファンタジア映画祭で今敏賞の栄誉が授けられて。目に見える形で、評価されてなにより。
あらためて調べると、TVシリーズ時からクリムトや日本画を意識した挑戦的な表現だったらしいですが。劇場向けに仕立てるにあたって、色彩の鮮明度をあげたうえで、和紙に描いたかのように、しわの寄ったようなフィルターを掛けたうえに、貼り付けたような色彩で、タッチは日本画風のベースで、建物の内装には洋画的モチーフも入って。奥行であるとかシネスコサイズの横長の空間は活かしつつも、人物も含めて平面的に整えたうえに、細かくカットを繋げているので、あたかも絵巻物をめくって貰っている感覚に陥る。
こうして文字起こしすると手作り感もするけれど、今の製作ですから色付ほかデジタル3D処理がされているのだとか。デジタル3Dと聴くと、ソフビ人形みたいなキャラクターを動かしたりだとか、実写と見紛う背景処理したりだとかを連想してしまって。一枚の背景画の上で、セル画を何枚も描いてキャラクターを動かしていたアナログ時代を知る年寄りとしては馴染みやすいうえに、創造性から高度なチャレンジをしていて敬服するしかございません。
物語は、大奥を舞台としておりますが。これまで触れて来た江戸時代の歴史上の人物による権謀術数は出て来ず、オリジナルとなっていて。お世継ぎを授かって君主の統治を確かにすべく設けられた男子禁制の大奥に、要領がよく聡明なアサとおっとりとして不器用だけど女の園に居場所を求めて来たカメの二人の見習いを通して、統べる者の意向に沿わねば生き延びられない閉ざされた世界大奥に起こる不可解で不幸な出来事が紹介される。
そして、この世のものでない何かが引き起こす「怪異」があるところにその姿を現す「薬売り」が、携える退魔の剣を発動し斬り祓う。オカルト的色合いよりも、謎明かし風味のケレン味溢れる活劇となっているので、その手の作品が苦手な方でも、問題ありません。
大奥の長が、いみじくも語るのですが。「人と云うのは、認められたいし愛されたいし、必要とされたい。けれど、それは他者があって満たされるもの。それを満たす隣人は同時に比べられ、席を奪い合う隣人である」と。何か、「ホールドオーバーズ」の続きで見ると、より染み入るし、道理を言い当てている。そういう元々個人が抱えた本心や個性を捨てて、集団に馴染まないとならない世界として本作の大奥は象徴されている。主要人物以外、顔がシルエットの上に渦巻きだけで表現される場面もそれを示しているのだろう。
世捨てまでして属する組織は、今の世の中無いハズだけれど。集団に属するために、個を犠牲にした悲劇が産んだ情念が、引き起こされる悲劇の起因となっていて。洗練されたアート表現を背景とした活劇で終わらせないのは、テンポの邪魔にならず足を引っ張らない絶妙な現代に通じる暗喩の味付けがあってこそ。
歌舞伎役者のような、変わったメイクと扮装の薬売りは、人物と背景が混ざり合う表現の如く、スイスイと人に付け入り男子禁制の大奥の中へと入り込む。人ならざる者を特定し、転異に至る心情と、その事情背景「形」「真」「理」の三様が得られて退魔の剣の封印が解かれる。そこからの「様式美」に乗っかった斬り祓いの動きは、絵で描き現わすからこそ呼覚まされる興奮。その瞬間だけは、アサやカメのように自分らしく生きても良いんだと諭される。劇場版から、薬売りの声を充てている神谷浩史さん。今回はキャラクターに歪んだところが無く見立て通りにその声が響きました。
これとは別のTVシリーズで、監督の中村健治さんを認知していましたが。インタビュー記事で、本作に取り掛かる前の作品で疲弊していたので、監督の仕事を辞める事も過ったと読みました。「今敏賞」の受賞で、報われたのではないでしょうか。
まあ、ここまで通読されただけ有難く、その殆どの方は興味無いとは思いますが。案外、期待しないで見ると、自然と面白味が目から入って来る事もあるかもしれないので、ご都合がついて気が引かれた方は、出掛けるのも悪くはないかと。
拙文にお付き合い頂き、有難うございました。
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