封切日から、一カ月以上が過ぎて。その後の新作の封切で話題性が薄れて、配信ポータルへのアップが時間の問題なのにも関わらず、例え時間枠の「穴埋めのため」だったとしても、よくぞ本作をスクリーンに掛けてくれた地元劇場に感謝の意を捧げたい。
流石に前作は、主演のティモシー君をしても「人喰い カニバリズム」のお話では賞レースにでも引っかからない限りは日本の田舎では陽の目を見なかったけれど、「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノ監督だけあって、描かれるテーマである中身がギッシリ詰まって見応えあるうえに、斬新で刺激的な見せ方による商業作品として昇華されている。
ハリウッド製ではあるのだが、「哀れなるもの」同様、部外者である欧州監督らしいこれまでの「価値観」には沿わない捉え方に味付けされたヒロインが、膠着した関係性に一撃を喰らわせて相応しい自由な在り方を見せる様に、彼女らとは相対する立ち位置でありながらも、スカッとさせられて溜飲が下がる。
表装は、テニスプレーヤーによるスポーツものには、なるのだけれど。原題カタカナ表記の「チャレンジャーズ」と聴くと、テニスに打ち込む挑戦者のひた向きさが、まず思い立ってしまうのが本作誤認の障害となって痛い。
高校生位から、互いにその腕を高め合いつつブロマンス的親密さだったパトリックとアートの二人が10数年に渡ってのテニスプレーヤー半生に、加齢によって底が見えてくる才能と肉体の問題だとか、社会人としての地位の問題とかシビアな面も展開に挟まれるも、あくまで味付けである。二人の10数年間には、彼らが出会った、容姿と実力を兼ね備え生来を嘱望された女性プレイヤーのタシが深く係っていた。
タシが大学に進学して間もなく試合中の怪我で選手生命を断たれるのだが、選手同士から、選手とコーチとして関係性への変遷の間、パトリックとアートがプロ選手としての歩みに彼女との「愛情関係」が深く浸透して、当初は親愛に満ちていたパトリックとアートは、プロの世界に身を置くものとして当たり前の帰結とはいえ、互いを意識する事はあっても憎しみや疑念が先立っていた。
チャレンジャーズとは、世界四大大会である全米OPにコマを進めるための予備大会を勝ち抜く選手達をさすもので、ランク上位なのにスランプのアートは、妻であるタシの策略でエントリーして。うだつが上がらないプロ生活を送り続けるパトリックと決勝で相まみえる。コーチの身分で、主審と同じセンターラインに座るタシは、自身を愛する二人の男をまるで、天稟にかける存在に映る。アートと共に写り込む自動車メーカーの巨大な宣伝幕が、作中効果的に使われているけれど。社会での成功や幸せな家庭といった自身の幸せの追求の一方で、倫理範疇に留まらねばならない事は知りつつ自身を縛り付ける息苦しさを抑え込んでいる。
作品は、現在の時間軸である全米OPを賭けた二人の対戦から、三人の出逢いから、試合前日の夜までを行き来して複雑な構成ではあるのだけれど、追ってゆくうちに「決戦」に臨むそれぞれの立場、特に二人の運命の女性であるタシの揺れる心情が浮きぼられて、単に試合の結果を見守るのではない、テニスの攻防構図を用いた、映像ならではのスリリングでエキサイティングな語り口。
話が進むにつれて、過剰になる電子サウンドも、煽りを効かせているようですし。単純に左右に二人を配置した横の構図の「引き」で試合を見せるのではなく、球を打って、打ち返す選手を正面に据えた縦の構図を多く取り入れて、コートに立つ者の「主観」に重きを置いているのもユニーク。
演者では、世に作品を送る責任者として製作にも名を連ねるタシ役のゼンティヤさんに、尽きます。PG12にしては煽情的な描写であった、アートとパトリックと出逢った日に、彼らの宿舎を訪ねてベッドに腰かけてから、刺激し合うように仕向けて二人の「欲情」を操って優位を自覚したかの表情に浮かぶ笑みと、ラブゲームを制して内から込み上げる興奮からの「カモーン」の叫び声は、突き刺さりました。見ているこちらのエキサイトも、煽られる。
もう一つ、本作が興味深いのは、春に見た「パストライブス」の監督セリーヌ・ソンさんの旦那であるジャスティン・クリッケスさんが脚本を手掛けた点である。幼馴染との出会いは「前世」からで、海を渡って知り合った白人男性と三人で夜のバーカウンター席に揃って腰掛けるめぐり合わせに、二人の男性に申し訳なさを感じつつも愛される自分を実感した女性による三角関係を語った「パストライブス」だったけど。
あの韓国人でない疎外感を抱えつつも、妻を抱擁したあの理解あるアーサーのモデルが、本作の脚本を書いているのである。レイティングには引っかからない様には作られたけれど、「従」の立場の男性目線で、妻のロマンティック目線とは違って、愛憎伴う現実を巧みな構成で綴る。この後もルカ・グァダニーノ監督とタッグを組む予定の他、オースティン・バトラー主演のベストセラーのギャング小説映画化の脚色も担当するとかで、本作は、今後の活躍への第一歩としても記憶に残りそうです。
拙文にお付き合い頂き、有難うございました。
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