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2023年06月25日22:29

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「ザ・フラッシュ」を見て。〜まるで複雑に絡んだ時制のような茹でたてパスタに必要な あのトマトソースは、想像の中でしか味わえない〜

綿々と続く、アメコミフリークに向けられた作品群の一本であるのは間違いないし、例え「意外」な事を書いたところで、今日のこの乱造傾向の中、門外漢の関心をかうのは難しいだろう。かく言う私も、この流れには、静観の構えなのだが、同様に普段背を向けている有識者が推すコメントと、30年振りのマイケル・キートンのバットマンが見られるというので、姿勢を軟化させて出かけてみた。

私の様な、「一見さん」にも冒頭のツカミで、主人公がヒーロー足り得る能力と、その力を発揮する為の要件だとか、パーソナルの持ち味だとかが、これを創ったワーナーのカートゥーンもののドタバタ、スラップスティックなタッチを大掛かりにしたスペクタクルに見せる間に、すんなり理解できる。作品のタイトルにキャラクター名を冠してしまうと、見る人を選別してしまうのだけれど。彼の特性である「高速移動」による時間の遡らせから、数多あるタイムリープものとして、新たな「名乗り」を上げる、表向きからは伺えない作品であった事をお伝えいたします。

ザ・フラッシュこと、バリー・アレンは、普段は化学分析かなんかの会社員として、冴えない生活を送ってはいるのだが。過去に母親を、「事件」で亡くしているうえに、彼の父親は母殺害の濡れ衣を着せられ収監されている為に、一層、彼を塞ぎこませていた。「ヒーロー活動」を共にして、今やメンター同様の付き合いとなっているブルース・ウェインの有力者ならではの協力を得てはいるものの、父の無罪を勝ち取る証拠をつかみ切れずにいた。

そして、絶望に陥ったバリーは、彼の「能力」を用いて、母親殺害に至る「要件」を排除すべく時間を遡る。二人が欠ける事のない両親が居る家庭で、自分が過ごすのを確認して戻るはずだったが、バリーは過去を変更した歪みに飲まれて行く。果たして、バリーは、あるべき平穏な現在を取り戻す事が出来るのか。

過去に同一キャラクターを別人が演じたものを活かす抗弁のフシもある、マルチバースという慣れない用語が取り上げられるこの頃ですが。ブルース・ウェインが、悪を浄化する姿のバットマンも、冒頭では、ベン・アフレックが扮して、バリーが「過去」を改変してしまってからが、マイケル先輩の登場となっていて。バリーのヒーロー仲間だった、スーパーマンが見当たらなくなった代わりに、本作がデビューとなる新人が黒髪のショートヘアのスーパーガールが登場して。これまでのヘビーユーザーも、かって馴染みのあったファンも、全く初めての方も、このジャンルの醍醐味が味わえます。

そういったこの作品が維持すべき「面白さ」を保ちつつ、この作品が、タイムリープものの「形式」を使って語るのは、望み通りにならなかった事実や、実現しなかった事を、「受け入れる」という姿勢。特殊効果と巨額の予算を使って、見る人総てをスカッとさせるのを絶対とされている作品であるのに、これを貫く潔さに、感銘させられました。

母親の「死」を阻止するのが、犯人を突き詰めるのではなくて、料理に必要な缶詰の買い間違いをくい止めるという細やかさも、「もし、あの時」の思い付きの可能性を大きく膨らませるには、アイデアとして丁度イイし。亡くなった人が、抱いていたかもしれない想いを語らせて、現実を受け入れるという辛さを相殺させるに相応しい場面作りに繋がっていました。

また、タイムリープによる、矛盾や歪みを理解してもらうのに、劇中マイケル・キートンが、自分が食すパスタの乾麺を使って解説するのが、見る方の判りを良くして、配慮も行き届いている。タイムリープ前のベン・アフレックも、リープ後のマイケル・キートンも、「過去」に囚われる弊害を語っていて、それが、後々に効いて来る。

物語に係る事以外にも、映画史に於いても「陽の目を見なかった作品」について言及されていて。自身の家族に係る事で過去にさかのぼり、現実の未来へ戻るという構図から、劇中のやり取りに引用される「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の製作ウラ事情も、過去の改変による影響を納得させるには、いいアイデアでした。

そして、ワーナー映画が送るヒーロー作品ですから、自社の製作歴史も、勿論、踏まえていて。マルチバースを判らせるために、マイケル・キートンのバットマン以前の懐かしい姿も垣間見えたりする中、まさかあの「陽の目を見なかった作品」が、数分とはいえ、目の当たりにするとは。あれには、驚かされました。

SFもののお約束に慣れているとか、過去作や、映画界での出来事に精通していた方が、より楽しめるので、結局は、見る人を選ぶのかもしれませんが、それでも、想像しているような、ただのアメコミヒーローものと見做すのは勿体ない事だけは、判って頂けると幸いです。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネプラザサントムーン シアター5にて

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