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2023年05月06日23:34

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「シン・仮面ライダー」を見て。〜準備周到と仰っていながら、やはり引きずられる父問題〜

主題歌メロディーを奏でるフォーンセクションが、この再構築版用にリフレインするアレンジでアクション場面に被さると、幼少の頃に形成された、脳みその下層に堆積する古い「記憶」が音感を通じて刺激されて、50年の隔たりが積み重なった年月の壁は、容易く崩落したのである。

1970年代当時は、ヒトを超越した生命体「改造人間」を、掛け合わせた対象生物名とくっつけて「蝙蝠男」とか「蠍男(本作では、妙齢の女性だったけど)」とか呼ばれていたものの、社会意識も変革して、昭和のフリークス趣味は出し難くなって。人体実験性漂う改造人間の出自も、テクノロジーの飛躍や、ITネットワーク社会の進化も持ち込んで、「生体の強化」を目に見えて異形には描かずに。そういった明らかに当時と違う背景を、TVシリーズの様な持ち時間は無いので、「駆け足」の様に、目の前に展開される場面と、キャラクターの科白を駆使して見る側に刷り込ませる。多く溢れる情報が、全部脳内に植え付かなくとも、判った「感じ」にさせる、構成のあんばいは、実に巧妙。

この手のジャンル作品であれば、冒頭に目を惹く「つかみ」を持って来るのが常套だけれど、それに至るフリも取っ払い、お断りもなしに放り込まれてしまえば、受け手としては、自ずと見聴きする情報で補おうとするものである。文章の冒頭に書いた往年の主題歌タイトルであるキメ技「ライダーキック」が、この再構築版で、挨拶代りに初めて炸裂するのだけれど。一時は、攻勢で優位だった蜘蛛オーグメントを、自らの跳躍で速度を付けて急降下し、上空の落下途中で捉え、オーグメント最強の力を持ってブーツの先を相手の下腹部へ押し込めるまでを見せる、迫るキックや、それを受けて蜘蛛が滑空加速度増してカベに打ち付けられようとする移動のカットの組み合わせで、生身感よりも、技法を前面にアクションを盛り立て、50年前の感覚を呼び戻す。

現代を舞台に、再構築するにあたって敵対組織は判りやすく「敵対」するのでなく、現実世界に埋没して、明らかな「悪」として目に留まらない。仮面ライダーも、「生まれ」はその敵対組織であるのはオリジナルと、勿論変わらないけれど。展開と共に、足早に語られる背景では、「崇高な理想」によって出来た組織ショッカーではあるが、傍目にはオーグメント同志の「つぶし合い」と、まず写る。

表現者である御自身を形成した過去の作品の「継承」を使命として庵野氏は、再構築に当たっていて。でも、役名は同じでも、70年代のオリジナルキャラとは、まったく別人。「金の国 水の国」では、ポッチャリ体型の姫の声だけの印象だったので、緑川ルリ子として黒の装いに茶コートを纏った浜辺美波さんは、物凄く洗練のギャップがあるうえに、取りつくしまを与えるスキも見せず「私は、用意周到なの」を常套句にして、組織に抗う揺るぎない女(ヒト)を決め込んでおりますが。父親の科学者緑川弘博士(塚本晋也)さんとの間に「溝」が、あるようで。博士の手によってバッタオーグメントとして生まれ変わった池松壮亮さん扮する本郷猛も、暴漢から住民を庇って凶刃に倒れた父(ワンカットのみの出演、仲村トオル)に対して、消化できない感情を抱えていて。その解決の為に、博士に我が身を検体として託した経緯もあるのだけれど。この男女のコンビが、そろって「組織のはねっ返り」であると同時に、各々が越えねばならない「父親の壁」を抱えている。


原点から半世紀の隔たりを経て作り直すにあたって、現代に通じる存在の理由や動機付けも変わるのは致し方なしですが。持てる映像表現の才能や、視覚効果の進歩があっても、オリジナル当時の様な、短絡的な「勧善懲悪」に帰結して、多くの人が溜飲を下げて、ヨカッタヨカッタで済む出来上がりではない。

2時間の上映時間の範囲内で提示される「設定」は、必ずしも万全とは言えず、余白を残している。丁重に作中に織り込まれた、原点設定と共に、埋め尽くされてない部分を、見終わった後、反すうすると面白味が増してくる。オリジナルの版権を握る大手映画会社から、誕生記念の冠を架せられた大作を任されながら、ただ模倣に終わらず、個人的で、他者から疎まれかねない、ましてや商業作品には似つかわしくない、思い込みにも近い、卑小な胸の内の引っ掛かりみたいな拘りを持ち込んでも、作品として成立させられる手腕は流石です。

往年のヒーローものの「焼き直し」にしては、絶対の売れっ子ではないけれど、邦画実写では、独立系作品で名うての監督と組む中堅ベテラン勢が参加されていて、それぞれ貢献されている。このジャンルでは、意味合い深い仮面の扱いですが、人間を凌駕する力を持つ化け物(オーグメント)である事を閉ざし、弱き存在を庇護する者として生きる決意を示すアイテムの意味合いがまず示されるが。

しかしながら、仮面を付けた者だけにしか見えない「主観」が有って。浜辺美波さんが残したメッセージ画像を、生身の顔半分を仮面から出して、本郷猛役の池松壮亮さんが、それを見るテイの沸き起こる感情を露わにする場面があるのです。昨日今日出て来たばっかりのモデル上がりの若いタレントには、難関の演技ポイントでしょう。カメラを固定したその場面の見せ場をシッカリと、見せ場にしていました。

演者各々の思春期に、TVシリーズの「エヴァンゲリオン」に触れて来て、その体験に華を添えるために名前貸し的に俳優さん達は出ているのかと想像していたけれど、想像を超えて真摯に作品参加されていて。

組織の崇高な理想実現よりも、家族確執が動機じゃないのかと思わせるルリ子の兄イチローに扮して、ライダーの前に立ちはだかるのが山本未来さん。これまた、「犬王」のビワ奏者友魚の声の出演を経ての実体とのめぐり逢い。立ち回りで、得意の舞踊を取り入れて、最強オーグとしてのカリスマ感を体現していたし。

でも、役柄として一番おいしかったのは、2号ライダーこと一文字隼人に扮した、柄本佑さんでしょう。池松さん同様、オリジナルの変身前ライダー演者とは、似ても似つかない、非マッチョな体格だけど。持ち前の飄々として、相手との距離感を置くところが、相手の思いやりに恩義を感じ、忠誠や仁義を尽くす漢気の部分を強調する効果があって。池松さんの1号ライダーとのタッグを組むまで、短い展開にあって、クライマックスへの反転攻勢への高まりを的確に見せてくれました。そして、2号ライダーが、仮面を作り直して貰う、彼なりの「つながり」への思いが、深く沁みてくる。

そうそう、「シン・ウルトラマン」に続いて、目の保養担当として、短い出番にも関わらず長澤まさみさんが出られていて。TVドラマ「エルピス」では、報道の苦悩に苛まれて、演技の境地も開いていたのに。端役で、けっして徳なんか無いのに、どれだけ尽くしてくれるのでしょう。

もう一人の綺麗どころ、蜂女じゃないや、ハチオーグに扮した西野七瀬さんは、浜辺美波さんのルリ子の心境の変化に係る、友情以上の存在として、展開に絡んでいて。オリジナルでは、蜂の一刺しからの発想かフェンシングの剣を手にして、あの時代ならではのサイケな全身タイツ姿だったけれど。キル・ビルのルーシー・リューにあやかった和装姿に、ブラッシュアップ。東映だけに、「極妻」も連想させる井出達に、日本刀を握らせて。片肌脱ぎをした際に、オリジナルの胸の渦巻きを見せてリスペクトも忘れておりません。

上映期間もかなり経過して、新作鮮度が落ちているので、簡単に済ますつもりがこの有様。


ダラダラ綴った中に、当時は主題歌で「地獄の軍団」と歌われたショッカーが、誰の眼にもそれと判り易い組織であるのか、判り難いと書きました。自己肯定感を植え付けながら、でも、耐えがたい苦しみを与えていると作品中で、口伝えられていて。目には触れないところで、潜っているのだとか。「ヱヴァンゲリヲン」以外の「シン」を冠した、再構築実写シリーズ3作に渡って出演している竹野内豊さんは、日本の政治を動かす実力者のポジションに位置しております。

当面は、仕事をしたくないとこぼされている庵野氏の構想として、ショッカーに係る政治家や官僚が、行政の中枢に入り込んだ状況を描きたいとのことで、ビジュアルを引き立てる演技実力者のライダーと、竹野内豊さんの政治家の共闘で、今の本当は誰の為に政治を執っているのか判りかねる日本の現状を取り込んでもらって。ジャンルものの面白さを両立させた、溜飲さがる作品を期待したいです。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネプラザサントムーン劇場��にて

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