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2021年06月20日09:08

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「Mr.ノーバディ」を見て。〜願いは、悲しき。何処にでも居る誰かへの成りきり生活に醒めた汚れたハートブレイカーは、悪党どもを道連れに自分回帰の大暴れ〜

些細な切掛けから、手の付けられない「大暴れ」。
この感染下で、力持つ者がその義務を果たさず、その無策ブリに翻弄されて忍耐を強いられている中、腕力にモノを言わせる者達を完膚なきまでに叩いて、見た目通りに、日頃溜まった「ガス抜き」の期待に、応えてくれる。

「ジョン・ウィック」シリーズを送り出した製作者と脚本家の再タッグ作品らしく、「売り」の活劇描写が淀みなく並んで、「ああ、良かったね」で席を立てるのだけれど。ガンフーとか称して、流麗なガンアクションに走るあまり、派手な見せ場の羅列の印象が強まって、お話や人物への興味が乖離して行った「ジョン・ウィック」に対して、同じく肩の凝らないジャンル作品に徹しながらも、引っかかる共感のツボをそこかしこに仕込み、単に紫煙が漂い、銃弾が撒き散らかされるだけの一過的な作品とは見做せない。キレと共に、程よい味わいもありました。

米国郊外に一軒家を持つハッチは、世界中のどこにでも居る、取るに足らない中年男である。スーツを纏って夫そっちのけでバリバリ働く妻と、背中を見て親の苦労も忍ぶ事なく己の思慮の足りないモノサシで父を見下す思春期の長男の間には「距離」が生じて、唯一、物心つき始めた4歳の娘だけが、ハッチに親愛の情を送ってくれるだけに、つい、娘の期待に応えようと気が入ってしまう。家庭内の空気は、円満とは言えないながら日々を繰り返していた。とある夜に、事もあろうか大事な我が家に、二人の覆面の強盗が押し入る。渡した小銭の被害だけで「穏便」に済ませたのだが、犯人に責められるままで、何もしなかったハッチの行動は、さらに妻と長男の間の溝を広げる事となる。

一夜明けて、身内唯一の「理解者」の娘が、小猫のブレスレットが無いと、騒ぎだす。もしや、賊が押し入った時に、金と一緒に渡してしまったかと、愛娘の敬愛を繋ぎとめるため、ハッチは、夜の街に探索に出かけるのだが。その帰りの路線バスに、チンピラたちが乗り込んで来る。ため込まれた虚しさとやるせなさから、ヤケの捨て鉢のハッチは、独り無法者達に挑みかかって行った。彼らの中に、ロシアンマフィア重要幹部の愚弟が混じっていたとも、当然知らずに。そして、怒りの感情にまかせて起こした騒ぎで、時間と忍耐を掛けて築いた家庭が、危機に晒される事までも。

こうして文字に起こすと、破滅への転落が目に見えて、溜飲が下がりそうにも無いけれど。そうなんです、ハッチは感情で我を忘れたのではなくて、叩きのめせる「確信」から、チンピラに絡んで行ったのです。「戦闘能力」に秀でた者が、些細な切っ掛けが発火点として、その力を発揮して見せ場を重ねていく、これまでにも幾つもあったパターンのバリエーションで、絶対に、やり場のない悲観的雰囲気へと堕とし込む事は御座いません。

モノローグやセリフだけで、彼が国家公認なのか非公認の一匹狼なのか定かじゃないのだけど、闇に紛れて制裁を実行する「監査役」として、ハッチは、その筋で名を轟かせていた。そんな彼が、家族を持って平穏な暮らしを送りたい願望から、破滅をもたらす唯一無二の存在を打ち消して、その辺に居る人と同じ誰かに徹すると決心し表社会に身を置いている。現実には、皆が「監査役」と恐れられる力を持っては居ないけれど、会社だとか、プライベートでも、望むと望まざると、身を置く「立場」に徹しないとならない事を踏まえれば、ハッチが自ら進んで、何処にでもいるオヤジであろうと本領を偽って「誰か」を全うしようとする姿というのは、アクションを見せるための誇張があっても、何処か、我々にも覚えがあるところ。

予告等本作の概要紹介では、先に書いたバスに乗って来たチンピラ一味にキレて戦いの幕が上がるとされているけれど。本当のポイントは、先の粗筋マトメで省略した、娘のブレスレット探索での顛末にあったと、推測される。罰せられるヤツらを締め上げて恐れられていた頃だったら朝飯前だった自分が、チッサな事で右往左往してあるべき家長像には、程遠い事を思い知らされた故に、沸き上がる苛立ちや激高を慣らしてきた戦闘スキルに乗せて、チンピラどもに向かって発散。現実には、そんな能力は持ち合わせてないし、そもそも許されないから、日頃の憤りのやり場も無かったりするけれど、我らに代ってハッチが、持てる力で暴れてくれる。

前半に、くど過ぎるくらいハッチの一週間の日常が、繰り返し見せられて、その中何度も火曜日のゴミ出しに失敗する様が、焼き付けられる。それでもハッチは、生地からラザニアを作って家族に振る舞えるほどの見上げた家庭人なのだけど。

全体としては、スタイリッシュにアクションを見せながらも、謹慎期間の間の加齢で、戦闘スキルにも、衰えが伺える様子を所々滲ませて。その所々で、ハッチが、その辺のオヤジと違う「タダ者」でないのを、察知する人たちの過剰なリアクションだとか、弱腰と見做した、見た目マッチョな隣人や同僚たちが、ハッチに偉ぶったのが、「お門違い」であった顛末から見せる。

そのハッチも、良き夫良き父であろうと、長い事自分を抑えてきた反動か、襲ってくるロシアンマフィア達を返り討ちで痛めつけた後、とうとうと心情を語って聞かせようとするも、話が終わる前に息絶えるパターンを繰り返す。また、何者でも無かった自分として生きた証が欲しかったのか、自分名義の「物件」購入へこだわりを見せて。タイトな展開にありながら、人物造形に繋がる描写も、流れを妨げず的確に挟み込まれています。

敵対するロシアンマフィアのボスも、サラッとではあるが、ハッチ同様、組織の中に身を置く者として気を病んでいるところもさり気なく指し込まれ、単なるヤラレキャラではなく人間味も、作品のトーンを崩さない範囲で触れられて。楽しむための作品であっても、創意が、行き届いている。

巷では、「バックトゥザフューチャー」のC.ロイドが、ハッチの父親役として、健在ぶりを見せているのに喜ぶ向きも多いようですが、私としては、愛娘のブレスを探して訪ね歩く入れ墨屋の店主として現れる、80年代この手の映画の仇役で活躍したマイケル・アイアンサイドの存命が、ちらっと垣間見えたのも収穫。そして何より、「大将、大根と牛筋ちょうだい」って掛け声を連想させるお名前ボブ・オデンカークさんが、戦闘力を秘めていながら何処にでも居るオヤジの役にハマっていたのが、本作の成功要因。経歴によると、TVの伝説的コント番組「サタデーナイトライブ」で、脚本を書いていたとか。渋さ増す歳になって、活劇ジャンルで幅をきかせているリーアム・ニーソンの後釜が、狙えそう。

思わせぶりな仕草をみせるハッチが、まだ何者かを知らされてない冒頭の場面で、日本はじめ数々のカバーが存在する「悲しき願い」が掛かって、偽りの身分を懺悔するかの様で、意味深。ルイ・アームストロングの「ホワットアワンダフルワールド」は、積み上げた普通の生活への決別にも取れるし。マフィア一味への反撃の狼煙となるカーアクションの際、ハッチがカーステで、独りの戦いを鼓舞する様に流す、「ハートブレイカー」も、オヤジ世代ならではのロックの選曲で、バックに流れるサントラも、作品に華を添えていたし。

ハッチが、チンピラに絡んでマフィアの銃撃を招いた時点で、「手を汚す者」の生き方として、家族と訣別するのが、本来、このジャンルであるべき姿だろう。けれども、ハッチは、忙しさで、肌にも触れられず、すれ違いになり寂しさを抱えた事を、妻に素直に打ち明ける。その後の二人の展開は、大体想像がつくと思いますが。本作は、銃弾が飛び交う情景の寓話として難しい事を考えず、受け止め、愛でるべき作品でしょう。

おっと、また、ダラダラと長くなっちまった。お付き合い、有難うございました。
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