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2016年03月07日18:44

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松岡榮志教授の最終講義(3)

(続き)

発音を聞いたら、発音記号で全部書けるようにする。

※これは、彼の御子息たちにもやらせたらしいが、今のような学習機材がない時代に、ヒアリングの勉強をさせたという事だろう。
自然に英会話ができるようになっていったんだと思う。
御子息は東大卒業後文化人類学を専攻されて、現在大学の専任講師だが、中国の少数民族や、台湾の高地民族などを訪ねて研究されている。
日本では勉強できないであろう現地語を使いこなせるようになって行ったのは、こうした語学の勉強のノウハウが役に立っているのだろう。

学問とはどんなものなのか?

自分の体験を語り、学生にイメージを持たせること。
例えば昔は巨人軍の四番になることがプロ野球の最高のポジションだと思われていたのに、野茂やイチローが大リーグに行くようになって、こうすれば大リーグに行けるのだというイメージを持てるようになった。
それから、続いて多くの日本選手が大リーグに行くようになり、日本のプロ野球が変わった。
松岡さんが学芸大学に来た時も、最初に考えたことは、イメージを持たせること。
学生を連れて中国に行かなくちゃいけないと思ったことだった。

そして30人からの学生を連れて行くと、学生の反応が変わった。
先生が行ったという話はあまり反応がないが、同級生が行って、体験してきたことを聞かされると空気が変わったという。
それまでは漢文の研究室は蜘蛛の巣が張っていると言われていたが、学生が多く出入りするようになった。

※私も、彼の10回目の訪中に同行させてもらったのだが、やはり中国に対する見方も変わったし、一緒に旅行に行った女性と結婚することにもなったし、変わったのだと思う。

イメージを養うのと同時に、スキルを身につけなければならない。
そのためにはどうするか?
勘を養うことについては既に述べた。(「芭蕉七部集」やルーブル美術館の話)
他には、体を使う事。

どういうことかというと、小学生に真っ直ぐな線を引かせるのに定規を使う。
これではダメだ。
定規が無ければ真っ直ぐな線が引けなくなってしまうから。
中国中央美術学院の学生は、何本でも筆で同じ太さの真っ直ぐな線が引ける。
定規を使うということは、そういうことができる能力をそぎ落としてしまうことになる。

また、ノートを持って黒板に行くなということ。
ノートを見ながら答を書くのではなく、ノートに書いてあることを覚えて黒板に向かい、解答する。
でないと覚えないんだという。

教育とはeducationである。
e(-ex)+duct
つまり学生の中にあるものを「外に引き出す」こと。「教え込む」ことではない。
この子には何があるかを見つけてあげて、何が足りないかを見極めて、足りないものに気づかせてあげることだ。

東京の大学に合格して旅立つとき、「私の顔を見に帰ってきたりするな」と言った。
葬式にも「来るな」と言われたが、死んでしまっているから行った。
とにかく、「そんな暇があったら勉強していろ」と、励まされていた。

どこの大学に行くかは言わなかったが、「本のたくさんある所に行きなさい」と言われた。
そして、中国のことをやると言ったら、大変喜んでくれた。
彼が大学に入った年は日中国交回復前で、漢文などやる人はいなかった。
卒業しても、良くて高校の漢文の先生くらいしか就職先がないと思われていた。
中国語を喋るとか、中国に行くなどということは、あり得ない世界だった。

そして、「誰かが面白いと言う人がいたらすぐに逢いに行きなさい」と言われた。
そこで、岐阜にいた富長蝶如と言う人に逢いに行った。
この人は郁達夫の先生の兄弟子で、一晩泊めてもらって語って来た。

※わたしもお茶の水女子大にいた友人に「面白い人がいて、あんたに合いそうだから逢ってみたら」と誘われて、松岡さんと逢うことになった。
池袋で初めて逢ったとき、彼は東大の大学院生だったが、確かに面白い人だと思い、何らかの形で接点を持ち、長く付き合いたいものだと思って、日本の古典で漢文で書いてあるものを一緒に読んでくれないかと誘った。
当初は断られたが、後から連絡があって、読んでくれることになった。
取り上げたのは「本朝文粋」。
東京教育大学のOBでもある柿村市松という人の注がついた本くらいしかテキストが無かったのだが、これが上下に分れた分厚い本で、引用書も返り点が打ってある程度のものだったから、とても勉強になったが、予習は大変だった。
彼と二人だけの勉強会だから、喫茶店で待ち合わせをしたりして読んだ。
今思い返しても至極の時間だった。

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