「まだしばらくの間、社会に出ずに遊んでゐたい」
といふ、よくある理由だけで、ワシは大学に行った。
当時付き合ってゐた彼女と、あんまり離れたくなかった、といふ事もあり、近隣のテキトーな大学を受験して、あっさり合格した。
とくに優等生ではなかったが、高校の成績は悪くもなかったので「お前ならもぅちょっと良い大学も狙えるが」と教師には云はれた。
だが、そんな気は毛頭なく、ただ4年間の「執行猶予」が欲しかったに過ぎぬ。その時の自分の学力で受かるならば、何処でもよかった。
当然、だいぶレヴェルの低い大学だった。
受験の日、大学の机に座って試験を受ける。
机にはいっぱい落書きがあった。
大学生にもなって机に落書きをするのか・・と思ったが、その落書きをつぶさに見てワシは息を呑んだ。そこには
[TOYOTA is BAST]
と書かれてゐた。
トヨタ・イズ・バスト!
TOYOTA IS BEST、といふのは当時のトヨタのTVCMの謳い文句ではあったが、大学生にもなってそれを机に落書きす、といふ無邪気さといふか阿呆さに呆れた。
よしんばそこに落書きする事に、何かの意味があるとしても、「BEST」の英単語すら書けぬ、といふ無知さといふか無学さに呆れ、ああワシはやはり相当な大学に行かんとしてゐるのだな、と思ったものだった。
まぁ此処を4年で卒業し、心の底より嫌悪してゐた「会社」といふものに入り、結局はそこも6ヶ月で退職する事になるわけだが、まぁあの4年間でジャズを聴くやうになったり、ギターからベースに戻ったりしたし、きちんと曲を作る、といふ術を覚え、長年の夢だった「ブラス・ロック・バンド」といふものも出来たのだから、全く無駄な大学生活ではなかった、とは思ふ。
うむ。それなりに有意義な4年間だった。
だが近年、ワシが大学を出てゐる、といふと、その事につひてガッカリされる、といふ事象が相次いでおり、まぁそれも理不尽な・・・とも思ふが、あまり周りをガッカリさせてもナンなので、来年から学歴を詐称する事にす。
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