安物のベースは、よくナットが壊れる。
弦の負荷に耐えきれずに「割れて」しまふのだ。
こないだ、結構ライヴで使ってゐた安物のアコベのナットが、やはり割れた。
本番直前に。
生まれて初めて買ってもらった¥18000の、たしかグヤトーンだったかのベースも、ここが壊れたのを思ひ出した。あのときワシは「プラッチックのナットはあかん」と身に沁み、その後ベースを選ぶおり、わりと其処をポイントに捜したやうに記憶してゐる。
そのグヤトーンの、ナットが割れたベース。
「どーやら楽器屋に行って『パーツ』といふものを求むれば、自分で直せるらしひ」
といふデマが流れ、それならば、と楽器屋に行った。
自分が使ってる楽器がなんなのかも知らぬガキだった。
今にして思へばあれは、プレベタイプの「ミディアムスケール」「ナロゥネック」だったのだ。『なんでワシのベースはケースが余るのだらう?』と思ってゐた。
それが楽器屋に行って、いきなり「ベースのナットを下さい。金属製の奴を」とのたもうた。
して、出されたそれは、ブラス製の溝も切ってない、無骨な鉄のかたまりで、なんや?これは、と思ひながらも買って帰り、家にあったヤスリでぎこぎこと溝を切った。
弦に「ゲージ」と云ふものがある事すら知らなんだ阿呆だった。
ネックに残ってゐた元のナットの残骸は、たしかペンチでむしり取った。
してそこに新しいナットをハメてみると、サイズが合わぬ。
そのブラス製のナットは通常のプレベのものだったやうで、ワシのベースには1cmくらい幅が広いのだった。
「まぁえぇわ」
とそれを付け、弾いた。
溝の切り方も無茶苦茶な代物ではあったが、金属製ナットの音はシャープで抜けがよく、おぉ直った!などとほざき、実際それはその後も使い続け、他人に貸したり預けたりしながら、最終的には友人に譲ったかなんかで、ワシの手を離れ、しかし、ベースとして生涯を全うしたやうだ。
思ふにワシは、楽器に対して、えらいぞんざいな扱いをする弾き手であり、いま手元にある楽器も、いづれも何処かしか壊れてゐる、といふ状態だ。
いつかバチが当たる。
いや、もぅ当たってゐるのやもしれぬ。
ワシがミュージシャンとして売れないのは、楽器のたたり、なのかもしれぬ。
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