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2008年07月05日17:22

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リターン・オブ・ザ・リレーバトン その2

「鉄鎖のメデューサ」番外編(MF〜MF)

 砂漠をさんざん放浪したあげく、M某氏は奇妙な岩を見つけました。それは洞窟への入り口でした。斜めに下る道の行く先は闇でしたが、そこから漂う気配は他ならぬアルデガンのものと同じでした。

「さてはネファーリアとアルデガンをつなぐ道か。ここに入ればあとは勝手の知れた世界。そのまま通り抜けて我が家へ帰れる。おせんべと氷茶が待っている!」

「なにを甘いことをっ」

 あきれたような声とともに洞窟の前に風が渦を巻き、その中に白と黒の螺旋のようなものが浮かびました。渦が解けると螺旋もほどけ、異界からの風に身の丈ほどもある純白の髪をなびかせた黒衣の乙女の姿が顕れました。

「ここへ踏み込んで無事に通り抜けられるなんて寝ぼけたことを思っていては、行く末が思いやられるわ。少なくとも老人ボケは確定よ」

 思わず後じさりしたM某氏に、至高の吸血鬼は肩をすくめるといい放ちました。

「私には選ぶ権利がないとでも?」

 安心していいのかひどい言いぐさだと怒るべきなのかM某氏が判じかねていると、洞窟の中から異様な声が聞こえてきました。無数の苦しげな声が、嘆き、呻き、呪っているのでした。M某氏の背筋を冷たい戦慄が走りました。

「わかっているはず。この世界に一歩でも踏み込めば、たちまち彼らはおまえに群がる。安楽に死なせてもらえるなどとは夢にも思わないことね」

 静かに告げる白髪の乙女の低い声は、しかし洞窟からの呻きを背景に恐怖の響きと化してM某氏を脅かしました。

「で、でも、それじゃ困るんだ。ネファーリアからでは直接自分の現実に戻れないんだから」
「思いつきでひどい話をさんざん書き散らすから悪いのよ」
「そんなぁ〜〜」

 情けない声をあげてへたり込んだM某氏の姿に、黒衣の乙女はため息まじりにいいました。

「せめてもう少しちゃんとした大人になってほしかったものね。まあもとがもとだったから、いっても仕方がないけれど」

 自分の子供時代を知られている相手です。なにをいわれようとかなうはずがありません。そもそも本人に身に覚えがありすぎるほどあるのですからなおさらです。

「それでもおまえになにか起これば、運命の因果律はさらに捩れる。なまじ誰かの牙にかかって人間の寿命を超えたりされては、私たちへの影響もさらなる長きにおよぶ。迷惑な話よ。さっさと帰って人間としての寿命に従いなさい。なんなら少しくらい早く逝ってくれてもいいわ」

「そんな薄情な」

「まあその不摂生ぶりでは長生きは怪しいかも。私がいうまでもないかしら。それでは道を開いてあげるから」

「み、道って、まさか現世と幽界のはざまの道? そんなヤバい道なんか通れるわけが……」

「ならばおまえをここへ引き込んだ本人に、帰してほしいと頼むしかないけれど? 破滅の大邪神なんてからかった例の女魔術師なんでしょう? 頼みに行く勇気はある?」

「それはない。はっきりない。きれいさっぱりない!」

 メアリにはただでさえ恨みをかっているうえに、答えをもらい損ねて無事ですむはずがありません。十分の九だか百分の九十九殺しですむならまだしも、どんなことで十や百になってしまうかわかったもんじゃありません。

「よそさまの所でまで好き放題しているからよ。少しは反省することね」

 いいながら白髪の乙女が片手で弧を描くと、どこからともなく風が吹きはじめました。

「風の中に入りなさい。勝手に道をそれないように。人魚の霊に恨みごとをいわれるかもしれないけれど、それくらいはちゃんと聞いてあげるのよ。せめてもの罪ほろぼしだと思って……」

 異界の風の異様な感触に総毛だつM某氏の耳に届いた、それが黒衣の乙女の最後の言葉でした。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 M某氏が面やつれして我が家にたどりついたとき、お茶の氷はとっくに溶けていました。畳の上では小学校に上がったばかりの息子がお昼寝していました。ためしに体重計に乗ってみたM某氏でしたが、数値は冷厳でした。結局怖い思いや身が細る思いにはダイエットに関する即効性など期待できないようでした。

 すやすや寝ている子供の顔を見ているうちに、M某氏はふと、息子がどんな「お友達」を抱え込んでいるのだろうと考えている自分に気がつきました。枕もとを動物のぬいぐるみでいっぱいにしないと気がすまないのはかつての自分と違う点でしたが、さぞにぎやかなことであろうと思えてなりませんでした。

 おへそ丸出しで寝ている我が子にタオルをかけてやりながら、あとでいぢめられたりしないようにちゃんと仲良くしておけよ〜などとM某氏はつぶやくのでありました。


                        おしまい

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