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2008年06月10日07:37

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4つのブラームス

 ブラームスの作品の中でたぶん最も好きな曲である「交響曲第2番」に、今年に入って注目すべきディスクが2枚出ました。読売日本SOの常任指揮者に80歳を越えた高齢で就任したスクロヴァチェフスキーの就任演奏会のライブに、金聖響がオーケストラ・アンサンブル金沢を指揮したセッションとライブの混合ですが、読響には前任者アルブレヒトとの立派なブラームス全集がありますし、OAKにも創立者だった岩城宏之との全曲録音がからくも残されました。家人の留守にかこつけて、この4枚のCDを久々に満喫しました。

 まず録音状態ですが、どうやら会場の設備をそのまま利用したとおぼしきスクロヴァチェフスキー盤がいささか落ちます。指揮者のうなり声が盛大に入っていることからも舞台に近い吊りマイクをメインに使っているようですが、客席で聴く響きに比べるとどうしてもざらついた、粗が目立つ収録パターンです。音響的な点ではいささか気の毒なディスクですが、なんとこれだけがSACD! どうせならもっといい条件で収録してあげてほしかったと思わざるをえません。
 あとの3枚はどれも優秀録音ですが、パターンはそれぞれ違います。会場での響きに最も近いのが岩城のものですが、これは録音器材の性能が上がり感度が高くなったから、十分な距離を取ることができるようになったという現代ならではの優秀録音です。空間そのものの響きの色合いも見事に収録していて、上手に鳴らすと会場の一番いい席にいる心地が味わえます。ただし装置の性能もある程度以上のものが必要になります。
 アルブレヒトのものはもっと音源に近いのですが、やはり音色の美しさを十全に捉えていて同じオケのスクロヴァチェフスキー盤とは雲泥の差です。ライブ盤というのは響きの収録に関しては問題のあるものがけっこうあるので、ディスクとしては見過ごせない違いになります。音源に近いぶん装置への要求もシビアではなく、鳴らしやすいディスクです。
 金のものは岩城とアルブレヒトのものの中間というべきでしょうが、この団体のディスクに共通するつややかなほの暗さというか、漆のような音色が実にいいです。残念ながらまだ実演に接したことがないのですが、これはこの団体の音色なのでしょうか。いつかは会場で堪能したい響きです。

 収録曲としては、スクロヴァチェフスキーと岩城はブラームスにそれぞれ現代曲を組みあわせています。前者はメシアンの「われら死者の復活を待ち望む」後者は権代敦彦の「84000×0 for orchestra」が組みあわされています。ただし、岩城のものはディスクとしてのカップリングで会場では別の曲との組みあわせだったようですが、とにかく日本の曲を聴衆に紹介しようとしていた岩城の姿勢を今に伝えるディスクです。
 ブラームスの2番の演奏としては、金を除く3人は老境に入っての収録なのですが、みんな流れを重視した若々しさが全面に出ているのが面白いです。そのぶん第2楽章などあとわずか逡巡の味が出ていればとも思ったりしますが、この曲はベートーヴェンにおける田園交響曲と同様、作曲家のあくの強さを脱したところで成立しているような性質のものでもあるので、全体としては好ましい傾向です。
 解釈の面では、第1楽章の提示部の反復を省略している岩城はやはり物足りなさを禁じ得ません。移行部のすばらしいフレーズがカットされてしまいますし、楽章ごとのバランスが古典派交響曲の常識的なものに収まりすぎてしまいます。演奏自体はしっとりした内輪な表情がちょっと室内楽みたいで、独特の良さがあるだけに残念です。
 若い金はより積極的な指揮ぶりで、これは室内楽ではなく交響曲だとさすがに思わせるエネルギーがありますが、そのぶん逡巡の味からは遠ざかりベートーヴェンみたいな前進性が前面に出ています。音色に陰影があるので単調に陥ることはありませんが、もう少し年をとったときの演奏も聴いてみたいと思ったのも確かです。
 スクロヴァチェフスキーは高齢にもかかわらず、老巨匠にありがちな茫洋としたものではなく形をきちっと造っていこうとする姿勢がこの人ならではです。音質がもっとよければとどうしても思ってしまうのが残念なところですが。
 アルブレヒトも形がしっかりした音楽を作る人だけに、演奏や録音の状態の良さが活きていて、4つから1つを人に薦めるならやはりこの盤でしょう。これもやや硬質なベートーヴェン寄りの解釈ですが。

 全体として、この4つの演奏はこの曲ならではの晴朗さに焦点が当てられていて気持ちよく聴けます。進行があっさりめなのに(少なくとも優秀録音の3つは)音色に陰影が出ているのが美質といえそうです。

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