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2022年01月22日12:32

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ヴォーン=ウィリアムスの交響曲が初めて方への覚書

 年を跨ぎましたが、今回はヴォーン=ウィリアムスの9つの交響曲についての続きで始めさせていただきます。まず9曲のハイティンク盤における演奏時間を下記のとおり列挙します。

『海の交響曲』  82:44
 20:47 22:04  7:57 31:56

『ロンドン交響曲』51:25
 15:21 12:13  7:34 16:17

『田園交響曲』  39:02
 10:20  9:25  7:26 11:51

『第4番 ヘ短調』32:59
  8:42 10:10  5:27  8:40

『第5番 ニ短調』43:08
 12:38  5:33 13:30 11:27

『第6番 ホ短調』33:08
  7:37  8:59  6:15 10:17

『南極交響曲』 41:37
 10:16  6:29 10:58+4:46 8:08

『第8番 ニ短調』30:31
 11:22  3:39  9:45  5:45

『第9番 ホ短調』36:29
 10:06  7:56  5:31 12:56

 なおヴォーン=ウィリアムスは長らく自作の交響曲を番号では呼ばず、標題交響曲は標題で、それ以外は調性で呼んでいましたが、6番と9番が同じ調性になったため最後の最後で番号で呼ぶようになったそうです。
 ともあれこの一覧を見てみると、彼の場合は最初の曲が最大の規模でマーラーの千人の交響曲とも呼ばれた8番に迫る長さですが、2番目ではベートーヴェンの『英雄』程度、それ以降は長くてもせいぜい『田園』どまりと急速に規模が圧縮されてゆくのが目に留まります。彼もまた20世紀前半の新古典的な音楽思潮のただ中で創作していた一人だったことが窺えます。
 それでもすでに『海の交響曲』から4楽章制を採っていて例外は『南極交響曲』だけ、それも第3、4楽章は続けるように指示しているわけですから、こと構成に関する限りヴォーン=ウィリアムスの交響曲は取っつきやすい部類に入るのは間違いなく各楽章にどんな趣向を凝らしているかを聴いてゆけばよいので、20世紀だから現代音楽などと構える必要はありません。しかも実質オラトリオ風の『海の〜』以外は歌詞を伴わないので絶対音楽として聴いてゆけばいいですし、その中で共通する特徴や曲ごとの工夫を楽しんでゆけばいつの間にか親しめる曲ばかりです。
 長らく作曲の分野において空白状態だったイギリスにおいて、先駆けとなったエルガー以上に質量共に充実した作品をものしたヴォーン=ウィリアムスですが、様々な工夫を凝らした9曲の交響曲にまだ親しんでいない方々に向けてそれらに共通する特徴をあえて手がかりとして示すならば、絵画を鑑賞するような姿勢で向き合われることをお薦めします。彼の音楽は楽章内での展開も楽章間の対比もコントラストを強調するより持続性や連続性を重んじる傾向が強く、ドラマチックな推移というよりむしろ静的な印象が主体になります。それが少なくとも僕にとっては、絵画を愛でるのに似た心理に誘うのだと感じるのです。その意味で彼の交響曲を体系的に聴かれるのであれば、中期以降の規模が小さく標題を持たない、すなわち4番以降の6曲から聴いていくほうがいいかもしれません。標題付きの曲では長めの演奏時間も7曲目の『南極交響曲』では40分程度ですし、映画のために書いた曲を交響曲に仕立て直したという経緯からも窺えるように難解な曲ではありません。プロコフィエフなどと同様トーキー映画の時代の作曲家だったからこそ、ワーグナーが体系化したモチーフの技法を映画の世界に応用した作曲家の一人だったことも理解できる曲でもあり、映画音楽というジャンル自体がオペラやオペレッタから分かれてきた大きな枝だったことも20世紀のクラシック界における動きだったと実感させてくれます。
 我々にとってモーツァルトやベートーヴェンはとっくに同時代人ではありません。けれど僕が生まれる前年に亡くなったヴォーン=ウィリアムスの場合なら、その曲の生まれた時代とぎりぎり地続きの聴き手になれるわけですし、今も健在な作曲家たちならなおのこと、我々は同時代性を軸にそのメッセージを受け取れる立場にいるわけですから、もはや人生の終わりも視野に入ってきた近年はいっそう近現代の曲にできるだけ触れておきたいという気持ちが増してくるばかりです。それらの体験を下地にしてこそクラシックと呼ばれるレパートリーもいかにその書かれた時代から切り離され演奏時の時代の色に染められてきたかも、演奏解釈の変化に立ち会えた体験を足がかりに理解できるのですから。



← 「ハイティンクのヴォーン=ウィリアムス交響曲全集」
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