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2021年05月09日16:51

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私家版(地下版?)ゴジラ案:その38

*呼びかけ

 省次が向けた視線の先で、機龍は静止していた。首も両腕も下に垂れ、所定の位置でロックされていた。これまでスタンバイの姿勢としか思わなかったそれは、だが若者にはもはや茫然自失の姿としか見えなかった。微弱ながらも伝わってくるものがそれを証立てていたから。たとえバッテリーが十分だろうと同じだったに違いないと感じた。そんな状態にさせたのは自分だとの思いが胸にあふれた。
 呼びかけよう、として迷った。相手をなんと呼ぶべきか。骨と化した身を蘇らせられたのみならず機械の中に封じられ、あげく憎き人間の命令を拒みきれぬサイボーグにまで貶められた存在の名に他ならぬ「機龍」 そんな名で呼んでいいのかと。
 だが「ゴジラ」という名にしても、初めて上陸した大戸島の伝説にちなんで人間が勝手につけた名にすぎず、相手が自分の名だと認識しているかさえ定かではない。一方「機龍」の名は相手が自分のことと認識できるようプログラムされている。それにその名を避けたなら自分が相手にしたことからも逃げることになるのでは。それこそ相手に伝えなければならないことだと思い直し、省次は話し始めた。相手との感情面での繋がりが残っていることを活かすためにも、語る言葉が自分の思いから遊離しないように細心の注意を払いつつ。
「すまない。機龍、聞いてくれ。僕は謝らなくてはならない」

 視界の隅で、頬をさする山川と助け起こした武部がこちらを向いた。気でも狂ったのかと言いたげな山川に対し、食い入るような目つきの武部。それに気づき、若者は声を大きくすることにした。彼らにも伝えねばならなかったから、自分がなにをしようとしているのかを。
「知らなかったとはいえ、僕たち人間は君に、君たちに酷い事をしてしまった。その結果君たちになにが起こったかも知らないまま、君たちを倒そうとしてきた。あまりにも強大な君たちが、まさか水爆のせいで永遠の業苦に落とされていたなんて想像さえもできずに……」
 ヘルメットから相手の反応らしきものは返ってこないが、自失したような状態が自分と溶け合う感触を省次は覚えた。言葉として通じているかは定かではないが、掻き立てた相手こそ違えども同様の状態に自分もあったおかげで繋がりが解けずにいるのだと感じた。それだけの衝撃を相手も受けたのだとの思いが湧き出るにまかせながらも、若者は消灯したままの目ではるかな高みから見下ろす機械化された獣を見上げ言葉をまさぐった。己がむしろ巨大な背中へ語りかけようとしているように感じつつ。


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