漠然と、また奈良を訪ねようと思った時に、まずはどこへ何を見に行くべきか、ということを考えた。
数年前に一人で訪れた際には、一に正倉院展観覧、二に飛火野へ行ってみる、三に鹿せんべいを食べてみる、という自分なりの目的みたいなものがあったのだが、今回はもうちょっとまともな目的が出てきた。
そもそもが、『日本書紀』を読みながら、実際にその舞台を訪れてみたいと思ったわけだから。
この二年で私が学んだのは、第16代天皇仁徳の死後から、その孫である21代雄略、その皇統が途絶えて新たに北陸から迎えた26代継体を経て、今はその息子29代の欽明天皇を読んでいるところだ。
さらに事情があって、神代巻のあたり(イザナキ・イザナミからアマテラス・スサノオ、海彦・山彦から天孫降臨を経て神武天皇まで)と神功皇后紀の部分の特別講義も受けている。
つまり、全く読んでいなくてスッポリ抜け落ちている箇所がいくつもあり、例えばヤマトタケルのお話なんて、いまだにバブル期に観た先代市川猿之助のスーパー歌舞伎が知識のすべてですけどそれが何か?ってな感じでもある。
これまでに読んできた箇所は、ヤマト政権のもっとも古い時代、まだ本当にいたかどうかもよくわからない人たちが奈良盆地(大和平野)を支配していたころの話で、飛鳥とか平城京とか律令とか藤原とかの登場してくるずっと以前の時代だ。
だから、高松塚古墳とか石舞台古墳なんかを自転車で巡る、という魅力的なコースも、今の私には、時代的にちょっと新しすぎるわけだ。
そこでがぜん浮上したのが、こういう勉強を始める前まではまるで知らなかった、大きい神と書いて「おおみわ」と読ませる大神神社、およびそのご神体の三輪山だった。
三輪山は、国譲りをさせられた出雲系の神、オオモノヌシを祀っており、日本で最も古い神社の一つであるらしい。
これまでに読んできた日本書紀にも再々登場しており、どうやら三輪山一帯こそが、古い時代のヤマトの中心地だったようだ。
いいぞこれは。
古ければ古いほど、私の中でのステータスは上がっちゃうのだ。
日本の原初の信仰を探る、なんて言うとそうとうカッコいいわけだが、今実施するとすればまさにそれだな、と肚はすぐに決まった。
さて、と。
では大神神社ってどこにあるのかな、から始まるのが、地理に疎いわたくしの常なのだが、ちょっと調べただけで、すぐ近くに箸墓古墳を始めとした纏向遺跡があること(纏向遺跡についてはレクチャーを聞きに行ったことがあるので多少は知っていた)、そしてその付近が、「山の辺の道(やまのべのみち)」として、奈良歩きの定番コースになっているということを知った。
おやまぁ。
せっかくオンリーワン的マニア旅行を思いついたというのに、どのガイドブックにも山の辺の道が載っているではないか!
これでは、飛鳥の遺跡を自転車で廻ろう的な古典的な旅行者と、何も違わんではないか。
なんか、悔しい。悔しいぞ。
けど、まぁしょうがないよね。
気を取り直して、旅行ガイドブックよりもうちょっと内容の濃い本を、図書館の歴史書の棚で探してみる。
すると、お、いろいろ出てるんですな。
中でも、和田萃(あつむ)氏の著作は、本人が奈良盆地で育って研究者になっただけあって、生活感のある記述が多く、参考になった。
特に、たいていのガイドブックでは、山の辺の道を北の天理から南の桜井に南下する方向でばかり紹介する中、三輪山のある桜井を起点に北上するプランを練っていた私は、同様の歩き方を紹介し、さらに冬枯れの季節の山の辺の道は趣深くて最高、などと書かれると、我が意を得たりとポンと膝を打つ想いだった。
さらに、界隈を歩くには国土地理院の5万分の一の地図があると便利、安価なのでぜひ購めるとよいという指南まであって、すっかり気に入ってしまった。
また、昭和44年発刊の田中日佐夫『山辺の道』には、奈良を撮り続けた入江泰吉撮影の写真がついている。
この本は2007年に学生社から「飛鳥道」と合本の形で復刊され、最近のカラー写真も掲載されているが、入江泰吉の写真見たさに、古本でオリジナルを買い購めてしまった。
初瀬川にかかる、今はもうない古びた木造の橋、暮れゆく金屋の集落、二上山など、私が観たのと同じ場所を、私が生まれた頃に入江泰吉氏の眼に映った景色として眺める不思議。
この本は宝物だ。
奈良の旅にも携えて行った。
(けれど、旅先では意外と本は読まないものだな。ほかに父の本棚で見つけた真茶色になった岩波文庫の古事記も持って行ったのだが、一度も開かなかった。)
ブックカバーに使ったのは、近代美術館「工芸の芸術」展のフライヤー。
サイズぴったり。
本でお利口そうに調べ物をするのと並行して、お土産物のリサーチをかねて、日本橋にある奈良のアンテナショップにも行ってみた。
ここは以前から市民講座などでちょくちょく訪れていたのだが、観光パンフレットも豊富にあるため、面白そうなものを一式もらってくる。
あった!
表がハイキングコースの地図、裏面は、全長約12キロのコースのそこここに建てられた、万葉集の歌碑の紹介。
そうか、山の辺の道は、万葉集ファンの心にも響く道なのだな。
そして、この先も何度か奈良を訪ねるであろうと思って、市販のガイドブックもひとつ購入した。
「片手で持って歩く地図」と謳う割にはさほど使い勝手は良くないのだが、地図中心で、やれお土産だ、やれスイーツだといった「ことりっぷ」的なものの対極にあるガイドブックは、7-8か所廻った本屋のうち置いているのはわずか2店舗だけだったというひねくれ具合も気に入った。
このガイドブックにも、当然ながら初瀬の谷の地図はなかったので、和田萃氏の推奨する国土地理院の地図を買うか、と考えていたら、なんと現在では、Websiteから好きな場所をA3やA4で無料でダウンロード、印刷できるようになっていたことがわかった。
https://maps.gsi.go.jp/help/intro/
ワーオ!
これ最高のサービスじゃないですか!これはおススメ。
今年にはいってから東京新聞に連載されている、豊田滋通氏の「よもやま邪馬台国」の切り抜きをもう一度読み直し、過去に受講した纏向遺跡や唐古・鍵遺跡の市民講座の資料に再度目を通したりするうち、だんだん日程が近づいてきた。
今回は歩き中心だから、今後のことも考えて、こういう時にちょうどいい靴を買うことにした。
そして、三日間の旅程を歩き通せるだけの足腰を作るために、(常日頃やっていないわけではないけれど)スクワットを真面目に実行し始めた。
もちろん、上りエスカレータを使わず階段を一段とばしに上がる習慣は、サッカーを辞めて以来衰える一方の自分に課しているオバチャンなでしこの意地の発露でもある。
こういうチマチマとした作業も含めて、旅の準備というのは愉しいものだな、まったく。
(1)こもりくひとり旅
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(2)ワカタケルの谷
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(3)こぐこぐ自転車
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(5)神の坐す山
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(6)山辺の道をあるく
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(7)古墳か仏像か
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(8)後日談・東京国立博物館にて
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