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2019年10月27日03:03

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人間ドラマをマンガにしかできない映画作りは、やめていただきたいと思います。沖田修一監督「モリのいる場所」(2017)。

日本の美術界に実在した“仙人”のような熊谷守一の晩年を描いた作品です。山崎努と樹木希林がその老夫婦を演じます。監督は「南極料理人」の沖田修一。「南極料理人」という素材を、その特殊な環境における面白さではなく、通俗的なドラマとしてしか描かなかった“若い”監督さんです。あれから10年たちましたが、その“若さ”は“健在”でした。

熊谷氏は実際に豊島区千早町に住んでいたそうです。千早町には会社の同僚が住んでいたから、一度行ったことがある。同僚がマンション住まいだったから、それが件のマンションだったら笑いますね。とはいえ僕は熊谷さんという画家(書家でもある)について全く知らないので、こんな出来の悪いコントみたいなものを羅列されても、楽しくありません。

熊谷老人は世の中の動きにとんと関心がなかったそうで、ただ自分の家の庭における自然の営みを詳細に眺めていたようです。そんな彼が“発見”した自然の詳細を、きちんとドラマに組み込んでくれればいいのに、この映画はそれをしない。世捨て人(世の中に捨てられたのではなく、世を捨てているわけですけど)を普通人が見て奇異に感じる部分だけを、奇異に描いてどうする。

ま、この監督さんは、「南極料理人」を実に通俗的なドラマに堕した前科を持つ人ですから、期待してはいけないのでしょう。とはいえ、カメラマン助手の無神経な若者らしさを見ると、人間というものを軽く考えすぎだと思います。我々はマンガから人生を学んだけれど、この人は人生をマンガ程度にしか考えていないように思えました。

その典型が、熊谷老が発した言葉に一同愕然とする場面で、上から金盥が2個落ちてくる場面です。ここでテレビのコントを模倣してどうする? 冒頭、“えらい人”らしき人物が熊谷の絵を見て、“これは何歳の子が描いたのですか”と質問したエピソードを据えているあたり、バカバカしくて見ていられません。柔道の山下選手に対し“柔道って骨が折れるんだってね”という秀逸なジョークをかました方ですよ。周囲がジョークを理解できなかっただけのことでしょ。

とにかく、登場人物のほとんどが熊谷老を理解していないという描き方がバカバカしすぎます。マンション建設によって庭が日陰になるから反対と、弟子たちがこぞって立て看板を作っているくらいなのに、出入りする連中が熊谷老を知らな過ぎるという設定は、そもそもドラマをぶち壊しているとしか言えません。

もしかしたら、昆虫を眺めて世界観を見いだしたファーブルと並ぶ人物だったのではないかと思える熊谷老を、こんな単純な“変人”にしか描かないなんて、このお粗末な人間観にはつきあいきれません。こんな形で素材をダメにしていくのが“製作委員会”システムの最大の欠点だと僕は思う。これだから日本映画なんか、見たくないのです。
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