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2018年05月09日18:49

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戦う操縦士

家にいるのに小説を読むということは、まずない。なので少し前に届いたサン=テグジュペリの『戦う操縦士』と『夜間飛行』は読み始めるきっかけがなかった。文庫本だし、電車に揺られるとか、病院の待ち時間とかに読むのがよいのである。

電車の中で本を読むと集中できるのは、外部から自分を遮断して引きこもるからではないだろうか。ハンナ・アーレントは思考することを「ひきこもる」ことと言っていて、この言葉が好きになった私だが、本日は床屋の待ち時間に引きこもってみた。『戦う操縦士』を片手に。ひきこもっているのに、飛行機で出撃というのは、どんなものであろうか。

よい本は数ページでわかる。これはたしか小説なのでストーリーがあるのだろうが、それはどうでもよくて、ただ文章を読んでいるだけで幸せになる。戦争が舞台の小説と聞けば私は最初から読む気力を失うというタイプである。加えて計器に取り囲まれた飛行機乗りが主人公となれば、全く無縁の世界ではないか。ヒトラーとの戦いは続いているがフランス軍はどこにいるのか。三機が出撃したらうまくいけば一機が戻るかもしれない。通常なら誰も戻ってこない。無駄な出撃が続いている。それでも行かなくてはならない。結果が悲劇となるのか勝利の栄光への一歩となるのか、その結果を知りたくて私は読んでいるのではない。今はただ出撃を命じられて飛び立ったところである。そこで床屋の番が来た。私は老人となって生きているので白い髪が雪のように床に散る。

この本の新訳(鈴木雅生)が出たと教えてくれたマイミクさんに堀口大学訳とどちらを買うか迷うと書いたところ、サンテグジュペリそのものを読みたいのなら新訳がよいのではと推薦してくれたのだが、実際とても訳もよいと感じる(堀口訳ももちろんすばらしいに違いないが)。その一端をご紹介。チャプター1の最後のあたり。

「愛というのは、風のように通り過ぎる言葉よりもずっと偉大だからだ。(略)愛とは論じるものではない。そこにただ存在しているものだ。夜よ、やってこい。そして愛に匹敵するなにか明白なものを私に示してくれ。文明について、人間の運命について、わが祖国における友情の味わいについて私に考えさせてくれ。そして、ある絶対的な真実のために、いまはまだはっきり言い表し難いなにか絶対的な真実のためにこの身を尽くしたい、という気持ちを私に抱かせてくれ……。」「もし生き残ることができたら、夜になってから、この村を横切る国道を少し歩くことにしよう。愛しい孤独に包まれて歩けば、なぜ自分が死ななければならないのかわかるかもしれない。」



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