mixiユーザー(id:7656020)

2017年07月21日21:44

223 view

エピソードEX5(リレー)その9

マイミクの綾華☆☆様のコミュニティにおけるリレーエピソード『から騒ぎの感謝祭』に更新がありましたのでお知らせいたします。

なお綾華☆☆様のコミュは下記のアドレスです。シリーズ本編をご覧になられる場合はこちらへお回り下さい。参加は綾華☆☆様の承認制ですが、申請はどうぞお気軽に。

「ZERO Another BALLAD」
http://mixi.jp/view_community.pl?id=5150160&_from=subscribed_bbs_feed


−−−−−−−−−−


EXリレーエピソード『から騒ぎの感謝祭』
MF

take-09

January 26th PM08:25

「メダルはん仕入れに来たでぇ!」
 部屋の中まで筒抜けの大声でがなりつつ軽トラから降りてきた恰幅のいいおばちゃんこそ、したたかさでは夢野市に敵なしとの声も高きスーパー丸太屋の女社長田丸恵美子。ここメダルカレーの谷町と同じ3代目ながら2代目の築いた身代を食い潰している格好の谷町とは逆に、田丸は先代が傾けた家業をおよそ女の細腕とは誰がいい出した冗談かというような見た目以上の剛腕ぶりで建て直し、地球人には売れぬ品も宇宙人が相手なら売れると見て取るや誰もが二の足を踏む旧湾岸通でさえ3店の投入にて制圧、他店参入の余地を一気に封じて盤石の牙城を築いたのであった。古人のいう侵略すること火の如し、動かざること山の如しを地でいくその采配に、同業者たちはただ両手に白旗を掲げることしかできなかったのだ。
 いまや旧湾岸通の流通を名実ともに牛耳る田丸であれば、その仕入れがなにやら戦国大名の年貢の取り立てめいて見えても仕方ないというべきだろう。確かに田丸の容貌には太平の世の幕府に仕える官僚的な大名というより奇策を弄することも厭わぬ乱世の奸物の相があった。応対に出た谷町がかなわんなぁと首を竦める思いなのもけだし当然のことだった。

「電話で頼んだ銅箱300、準備できてるやろな?」
 いわれた谷町が玄関口に積み上げた在庫の山を指し示すと、田丸の背後からやせっぽちの怪人が姿を現すや巨大化し、あっという間に小山のごとき在庫をあちこちからかき集めた品々で荷台が山盛りの軽トラの助手席へ丸ごと押し込んだ。再び人間大に戻った薄墨色のその怪人。細い胴に長い手足、蜘蛛の脚にも似た指と爪。3つの目は左右の位置が大きくずれているばかりか、1つは後ろに付いているという奇怪千万なその面相。これぞ地球を最も早く侵略しにきた宇宙人との悪名も高きケムール人である。
 夢野シティの中でも宇宙人の居住率が最も高いこの旧湾岸通は地球人にとって彼らと無縁で暮らすことができぬ区域であるが、それら宇宙人たちの中には元は侵略者だった者も数多い。むろん今の彼らはもはや侵略者ではないのだが、同じ地球人同士でさえ足を洗った極道と誰もがつき合えるわけではないことを思えば、かつての侵略者と日々顔を合わせ働くというケースが珍しいのも無理もない話に違いない。食い意地と逃げ足しか取り柄(?)のない残念侵略者ポンポス星人をそうと知りつつ経理係として雇う谷町のメダルカレーでさえまだまだ例外的な存在なのに、いくら格安で雇えるとはいえバルタン星人やザラブ星人などの筋金入りさえも顎でこき使うなどおよそ常人の胆力でできる芸当のはずがなく、たとえネーム入りの制服姿であれ堂々たるその押し出しに女帝の風格すらにじむのもこれまた当然というほかなかった。

「ほな請求書見してもらおか」
 いいつつ赤ペンを取り出すや、眼光一閃たちまち個数といわず金額といわず何がどうなればこんなでたらめな数字が出るのかと思うほどボロボロの計算を片っ端から直してゆく。
「ええかげんあんたの経理係はどないかしなはれ。なんやったらウチで一から叩き直してもええで。もちろんそれなりの研修費は払うてもらうけどな」
「もうちょい余裕のあるときでええわ」
 苦笑いする谷町にフンと鼻を鳴らしつつ、田丸は元侵略者の懐刀が腰に結わえた手提げ金庫から差し出す代金を支払いながらも毎度おなじみの悪態をつく。
「あんたはホンマ父ちゃんといっしょや。道楽で商売やってるとこがな。そんなんでもうチョイも余裕もあるわけないやん。商売ナメたらあかんがな」
 それを耳にし、いつもと同じ1つめの疑問が今夜も谷町の頭に浮かぶ。まだ先代たちの時代だった頃から聞かされ続けた父への悪態。思えば自分もそんな恵美子の侮蔑のまなざしの片隅に覗く異なる色が意味するものに当時は全く気づかなかった。その父の死を期にそれが少しづつ大きくなり始めたことでやっと気づけたものだった。ならば恵美子自身はいつ己が亡父へのそんな思いに気づくことになるのかと。

 そう思ううちにも田丸は軽トラに乗り込みエンジンをかける。とたんに荷台の山が危なっかしく揺らぐその真後ろで、身の丈ほどある籠を背負うケムール人。どこからそんなものを出してくるのか今日こそ見届ける気だったのにまた忘れたと思う谷町の目の前で急発進する軽トラ。たちまち大量にこぼれ落ちる品々を長い両手でキャッチしては背負い籠へと放り込みつつ俊足の宇宙人もまた走り去る。見送る谷町は2つ目のなじみの謎に、彼にすれば哲学的とも形而上的ともいうべき疑問に首をひねる。彼らはなにゆえこぼれる分を、はじめから籠で運ばないのであろうかと。


リレーその10 →
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1961737808&owner_id=7656020



← リレーその8
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1961522161&owner_id=7656020

3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年07月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031