『私的ゼロ外伝合作場』コミュにおける綾華☆☆様の物語に更新がありましたのでお知らせいたします。宇宙に光が生まれたことで滅亡への一途を辿り闇の種族最後の一人となったベラドンナの言葉が、ゼロの秘めた記憶をかきたてるという場面です。
日記の公開設定の関係上、本文を僕のコミュのうちの1つである『お話の預かり所』に置いておられますが、こちらでも公開させていただきます。
どうぞご覧ください。
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『宿命の旅路』第0章−31(綾華☆☆)
光を通さぬ暗黒の毒ガス雲の中に、黒いベルベットに包まれた黒真珠のように存在する惑星ベラ。その地底神殿で暗黒の巫女と対峙するゼロ、グレン、ミラー。そんな光の戦士たちに、呪詛というより限りなき無念をまなざしにたたえ、種族最後の者だからこそ巫女になりえた女はそうとは知らぬ相手に口を開く。
「……我ら闇の種族は、いまや私ただ一人! 光によって追われ糧も奪われ、生まれても飢えに泣きつつ死ぬしかなかった幼子も冷たくなりゆく骸を抱きわびることしかできなかった女も、糧を求め旅した果てに光に焼かれ力尽きた男も皆死んだ。この私こそ光を生み出し我らを拒んだ宇宙に滅ぼされゆく古き種族の最後の一人!」
その言葉にゼロの心は鈍く疼く。宇宙に拒まれてさえ幼子を守ろうとした親たちの姿が、若者の傷を抉らずにおかぬものだったから。オヤジはなぜオレを育ててはくれなかったんだ? オレの母親はどこの誰なんだ?
なぜそれを尋ねたら誰もが口を貝にする? いつか時が来たらとだけ答えるオヤジもあとは沈黙するだけで、それがいつかすら教えてはくれない。
そして巨大な災厄のただ中で力尽きてゆく者たちのイメージがさらなる記憶を呼び起こす。べリアルによるプラズマスパーク強奪事件において、永遠に命を落としたたった一人の犠牲者。ゼロがいた戦災孤児を預かる孤児院で働いていたシータ……正しくはカルメンシータおばちゃんの死を。
プラズマスパークタワーが復活し光の国が復活した時、喜びに沸く人々の中で涙にくれる幼なじみの娘に気づき、ゼロはあのとき彼女に訊ねた。そして聞いた。二度と復活できぬ永遠の死が、ウルトラ一族にはめったに訪れぬ真の死が、育ての親たるシータおばちゃんを襲ったのだと。
べリアルが光の国を襲撃した時、孤児院の子供たちを真っ先に宇宙警備隊本部へ逃がすよう指示し、シータは破片などで傷つきながらも託児所に駆け込んだ。ゼロの幼なじみの娘はたまたま家族の遣いで姉と共にそこにいたのだ。
動揺する若い看護師たちや子供らを一喝し落ち着かせるやすぐさま子供達を連れ衛星軌道まで逃げようとしたとき、まだ赤子らが残っていると聞いたシータは育児室へ一人戻った。
そのとき未曾有の寒さが光の国を襲った。べリアルがプラズマスパークの光を奪い去ったのだ。普段おっとりしていても、鋭いシータは瞬時に悟った。光の国の滅亡を。
だが必ずやまた甦る。ならば自分が今なすべきは赤子らを守ることただ一つ。寒さへの耐性が低い赤子らはこのまま放置すれば全滅する。そんなことは絶対にさせない!
シータは自らを室内にある環境防護システムに直結させ、その身のエネルギーをひたすら送り込んだ。赤子らが完全に凍結するのを防ぐべく。
ゼロの幼なじみの娘たちは意識を取り戻してすぐおばちゃんの戻った育児室の扉を開けた。
赤子らは一人残らず環境維持カプセルの置かれたベッドの上で穏やかな眠りの中にいた。そして姉妹は見たのだった。尊き人柱となった姿を。
そんな話を若きゼロは信じられなかった。嘘だと叫ぶことしかできなかった。
けれど横たわるおばちゃんは誇らしげに微笑んでいても、もう散々手を焼かせる暴れん坊のオデコを拳骨することもそんな彼が正しいことをしさえすれば優しく抱き締めることも決してできなくなっていた。全てのエネルギーを燃やし尽くしたことでカラータイマーが完全に砕けていたのだ。
いかに光の国の科学を持ってしても、もはや復活は不可能だった。
ゼロに最初に温もりをくれ、未来に生きる幼い命のために身を犠牲にしたシータおばちゃんの死。それはゼロが初めて経験した身近な人の死だった。
ゼロはあのとき容易には立ち直れなかった。ウルトラ一族にはめったに訪れぬ真の死に大切な者を奪われた衝撃はそれほど大きかったのだ。父だと知らされたセブンの復活がなければ我を取り戻すことさえできなかったに違いない。
激したものでは決してない、静かでさえあるベラドンナのその口調は、けれどずしりと重いものだった。種族ごと滅びに瀕した経験あればこそ感じうるその重みに、ウルトラ一族の若者の心はいまや圧倒されていた。
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