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2016年06月12日12:05

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1/8

本日は私の誕生日。親父がなったことのない68歳となった。(mixiを開けたらお祝いメッセージが寄せられていました。ありがとうございます。)

北海道生まれの親父は15歳で50円だかを持たされて満州に渡った。産めや殖やせやで10人以上の兄弟姉妹が普通の時代、土地をもらえない下のほうの子どもたちはどこか食いぶちを探して生きていかねばならなかった。以来67歳で死ぬまで、どんな人生だったか。大陸で商売をし何度か応召して満州、中国を転戦、日本で見合いして私の生母をもらい、また中国で暮らした。ソ連兵に追われていた時、中国の農民たちが包囲して守ってくれたことがあるという。口の利けない白痴の振りをしていろ、と。それで父は中国人は「大人(たいじん)」だと言い、引揚者として帰国した後も、せせこましい国土の情に薄い日本人を嫌っていた。日本でいいことはなかったから、というのもあるだろう。勤めたことはなく、起業しては失敗していつも借金だらけだった。子どもが4人もいたのに離婚し若い戦争未亡人と一緒になった。商売に失敗しては差し押さえにあうので、家に帰ると布団と食器以外は全てなくなっている、ということが何度もあった。最後は近所のお寺の柳を剪定する仕事を引き受け、木から落ちてその日の夜に死んだ。わたしの初めての赤ん坊は未熟児だったが、長い産院・妻の実家生活をへて、ようやく自分の住処に家族揃って帰ってきた日のことだった。人は生まれ人は死ぬ、と初めて実感した。

親父の67歳と比較すると、私は幸せなことに戦争も知らず、いやいやの仕事であったが勤め人を満了し、今は年金生活をしている。単純すぎて書くこともない。親父が日本を飛び出した頃に何をしていたかといえば詩に目覚めたくらいで、今に至るも飽きずにそれと一緒に生きている。当時の予定では、この歳には私は大詩人になっているはずであったが、実現していない。15歳の子どもが満州へ行かなくてはならない事情は、昔、教科書に載っていた16〜17世紀の英国のポスターと同じである。「パンを!子どもたちにパンを!そのためには植民地が必要だ!」。今は違う形で満州を欲しがっている時代である。外国に飛び出していく覇気のある青年が期待され「内向きな若者」が非難される。

廿楽順治さんの詩集『怪獣』が送られてきた。オン・デマンド方式?みたいな本なのでどうすれば買えるのかと思っていたが、いただいたので楽しく読んだ。その中にこんな詩がある。

    1/8計画

混み合いますから満州へ
そう言っていた軍人さんも
みんなちいさくなった
ちいさくなれば
まだまだ住める
たべものだって少なくてすむ
わたしたちは少しはにかみながら
1/8になった
苦悩も文法も
知り合いの数もみんな少なくなった
わたしの死だけが
小さくならない
かどうかは死んでみないとわからない
ぜんごさゆう
どれも1/8
もとの大きさを忘れたので
(まあ目測だが)
世界の余白が増したことだけは確かである
この詩もそうだ
ほんとはもっと長かった
もっと苦悩が多くて
もっと難しい単語が多かった
わたしたちの計画はやはり成功している
みんなちいさな詩になった
だから希望とか満州は
もういらないのだ           (原文はすべての行が下揃え)

このユーモアの下地には含羞があるかもしれない。だから私が親父の満州を想像するのとはもちろん違うだろうが、「満州」という言葉を使って詩を書く最後の世代かもしれないと、ちょっと思う。私はちいさく生きて小さな詩を書いて死ねればそれでいいと最近は思うようになった。全然違う角度からかもしれないが、面白いと思ったのだった。

この詩集はタイトルどおり、「怪獣」が主役なので、モスラやラドンや私の知らない怪獣がたくさん出てくる(私の家にはテレビが来るのが遅くてあまり観ていないのだ)。暴れまわる東京は彼らには小さすぎただろう。彼らは1/8にしてもまだまだ足りないのである。好きな作品はたくさんあるが「魔神バンダー」の最終部をちょっと写しておこう。「あの全滅のさびしさのことは/みんな酔っ払っているので思い出せない/(バンダー ごめん)/夕方は配達で忙しいから/わるいけど/せんそうはまたあしたね」

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