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2015年11月21日16:53

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地下P59:光と闇と

 その意外な光景に誰もが虚を突かれたそのとき、風のそよぎに押しやられでもしたかのようにふわりと近づく光る闇。我に返り撃ち落とそうとするゼロやタイガにヒナが叫ぶ。
「やめて! 撃たないで!」
 思わず振り向く種族の異なる若者たちの間を抜け、ヒナの前に漂いくる闇に包まれた淡い光。そんな光る闇の様子に、ためらいつつもなぜか手を差し伸べずにいられぬヒナ。目をむいたサワがその手を掴んで怒鳴りつける。
「な、なにする気だよ。また取っ憑かれるだろ!」
 だが光を孕んだ闇はヒナの手を避けるようにゆらりと浮き上がり、しゃぼん玉のようにふわふわと大空高く舞い上っていった。集まってきた子供たちやチームUの仲間たちも見上げるうちに、小さな玉は色あせ始めた蒼穹の彼方へ溶け去っていった。
「……いくらか様子は違うみてえだが」
「大丈夫なのか? 逃がしちまってよ」
 口々に問うゼロとタイガに、ためらいがちにヒナは答える。
「……わからない。でも……」
「じゃあなんで逃がすのさ! あんなヤバい奴やっちまえばいいじゃねえかっ」「サワ……」
 向き直りつつヒナは感じた、相手の叫びが自分の思いをいわば削り出したのを。だから続けた、その手応えを確かめながら。

「私はあれに取り憑かれ、本当に恐ろしい思いをしたわ。多くの怪獣と戦わされて、倒す先から取り込まされて……。
 けれど、ずっと感じていたの。あれも怪獣たちも同じだって、バット星人にとってはみんな単なる材料なんだって」
「だから憎む気になれないっての?」
「それもあるわ。でもそれだけじゃないの。いわれたのよ、あの悪魔に。私たちが他の生き物にしていることも同じだって」

 言葉を切り、空を見上げるヒナ。サワが、ゼロとタイガが、そして子供たちや仲間たちが見上げたとき、青い光が降り注ぐ空はいつしか夕映えへとその色合いを変えつつあった。
「あれは確かに危険かもしれない。私たちが一緒に生きていける相手ではないかもしれない。それでもあれが少しでも変わるのなら、いえ、結局変わらなかったとしても、宇宙のどこかであれが生きていくことまで否定したくないの。不都合だから殺したり、役に立つよう手を加えたり、そんなことばかりしていたら、いつか私たちはバット星人のようになってしまうんじゃないかって、そんなふうに思うから……」

 夕映えの色が紅蓮に深まり大地を影が満たし始めた。昏い赤と黒に天と地が染まりゆく光景に誰もが等しく心打たれた。それは美しかった。全てが闇に呑まれゆく光景であるにもかかわらず、それは身震いするような美しさとともに闇もまたこの世界の一部に他ならないのだと訴える力を持っていた。そしてその深みある闇を背景に降り注ぐ青い流れを新たに見上げる人々の姿もまた、いつ果てるともなく増えてゆくのだった。そして……。


−−−−−−−−−−


 それから1ヶ月後のある夕暮れ、ようやくエネルギーを完全に回復できたゼロの大きな体は、別宇宙へ戻るに足るエネルギーを蓄えた白銀の胸当てともどもあの日と同じ夕映えの残照に映えていた。かつて火竜に蹂躙されたベースキャンプのある小高い丘。ゼロの目の高さからは、復興めざす湾岸都市の明かりに彩られた平野の様子が容易に見て取れた。いわば無人の状態で建物だけが被害を受けた湾岸都市の復興は、人々が戻ったことで急ピッチで進められていた。
 そんな若きウルトラ戦士を見上げる人々の中から、子供たちの顔がいくつか消えていた。この1ヶ月の間に親と巡り会えた子らだった。残された子供たちの顔に、けれど不安や寂しさは見られなかった。バット星人の手中にあったあの日々の中、身を賭して守ってくれたチームUの面々や身を寄せ合ってきた仲間たちとの絆もまた、子供たちを支えているのをゼロは感じた。

「あとは頼むぜ」「任せて」
 揺るぎなく答えるアンナの横で、タイガがまっすぐなまなざしを向けてくる。
「世話になったな」「お互いさまだ」
 そんな自分たちを交互に見やる目に涙を浮かべ、声詰まらせずにいられぬヒナ。
「ありがとう、ゼロ。あなたが来てくれなかったら、私……」
「いや、オレは大したことはやってねえ。なにしろ力じゃまるで歯が立たねえ相手だったしな」
 遮るゼロの口調に、微かな自嘲が滲む。
「正直キツい戦いだったぜ。みっともねえマネもちぐはぐなことも散々やったし、いま思っても勝ちを拾えたってのが本音だな。でもよ」
 見上げる皆の顔を、若き戦士は改めて見つめる。
「このうちの誰が欠けてても、オレたちはここでこうしていられなかったのは間違いねえ。みんな、いいファイトだったぜ!」
 沸き上がる歓声の中、ふとゼロは思い出した。ここへくる直前にグレンにいわれた言葉を。ベリアルを倒しきれなかったせいでグレンたちの宇宙に甚大な被害を出したとの自責を滲ませていた自分に、あのとき彼はいったのだった。そうやってなんでもてめえでカタを付けようってのは感心しねえぞと。
 あるいはグレンも同じような戦いを、自分の力だけでは及ばぬ苦境を切り抜けたことがあったのかもと思ったそのとき、天からそそぐ一筋の光が白銀の鎧に燦然と映える。ちぎれるくらい手を振って別れを惜しむ皆に向けて手を振り返すや、ウルトラ一族の若者は道しるべの光の中をゆっくり上昇し始める。だが行く手をまっすぐ見据える金色のその目にも、行く手に待つ戦いの厳しさや宇宙の命運をも揺るがす大いなる事態はまだ映じてはいなかった。そして解放されたイージスの力が我が身を元の時空へと渡らせる瞬間、空間の裂け目が小さな存在を吸い込み次元流がそれを別の時空に吹き飛ばしたことも。


−−−−−−−−−−


 幾多の時空を押し流された果てに、光を宿した闇は別の宇宙にたどりついていた。
 異質なものを内包する存在と化した闇はゆえに仮死状態へ陥りつつも、本来の状態を回復させるなにかを本能的に求めていた。無限ともまがう時を漂い過ごした果てに、それは黒き波動に呼び覚まされた。同族たちが群れをなしてとある惑星に集まってくるところにいつしか流れ着いたのだ。
 その惑星は、あの星とそっくりだった。まるで鏡に映したかのようだった。同族たちの侵攻を受け、その星にはいたるところに恐怖と混乱が渦巻いていた。それが光に冒されたその存在の闇を力づけ活性化させた。

 やがてそれは感じ取った。その恐怖や混乱のただなかに混じる抑圧された憎悪の微弱な波動を。それが己を冒した光を消しうるものであるのを察知した闇は、波動に惹かれもう一つの地球へと降下し始めた。闇から人々を守り抜いて死んだ兄への抑圧された愛ゆえに、意識下で人々への憎しみを育ててしまった女が悪夢に苛まれているところへと。


                           終




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