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2012年11月16日19:56

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頂き物0−22

『私的ゼロ外伝合作場』コミュにおける綾華☆☆様の物語に更新がありましたのでお知らせいたします。東銀河へと向かうジャンバード船内での一コマと、北銀河および西銀河を訪れた使者たちという場面転換の章です。

日記の公開設定の関係上、本文を僕のコミュのうちの1つである『お話の預かり所』に置いておられますが、こちらでも公開させていただきます。

どうぞご覧ください。


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『宿命の旅路』第0章−22(綾華☆☆)

「この宇宙を創造したのは灰色の巨神だといわれています。それは光と闇の均衡を司る存在ですが、宇宙の創造の刻にのみ顕現するため、御姿を目にしたものはいないとも。
 私の祖国エスメラルダに遣えるミラーナイトの叔母上様は、その灰色の巨神が遺した『時の鏡』の守護者なのです」

 東銀河へ向けてネオハイパージャンプ中のジャンバードのブリッジでは、エメラナがタロウにアナザースペースの歴史を語っていた。
 ランとナオはキッチンで、お茶と茶菓子の仕度中だ。

「私が歴史の家庭教師から教えられたのは、このくらいです。あまりお役に立てなくて申し訳ありません。タロウ様」
「いや、ありがとう。如何せん、私達はこの宇宙についてあまりにもデータが少なく、そうした話も貴重です。
 ゼロがこの宇宙へ来てから、彼のバイタルデータが常に転送されてきていたため、私達はここに来るための装備を改良することや、生態系列の違いなどを補充するサプリメントなどを作り、ウルトラスキャナーを持ち出すこともできた。
 だが、やはり百聞は一見にしかず。
 実は、あなた方に……」

 タロウが身を乗り出した時、ドタバタとナオが入って来て、エメラナとタロウにスプーンを持たせた。
「タロウさん、エメラナ。アヌーのお祭りでのお菓子を作ったんだ。食べよっ」

 ナオも自分のスプーンをポケットから出した。
 そこへ熱々の鍋を抱えたランがやって来た。
「勝負は3分です」
「いただきます!」
 ジャンバードのブリッジが、一転、歓声と賛嘆の声に満たされる。

 本来なら、アヌーの今の時期は厳しい冬になる。
 冬が来る前に、アヌー連合が集まり、盛大に祝うのが、『恋人達の祭』だ。
 マレク船長から路銀の足しにしろと持たされた、サバでしか取れないスパイス、タムの実をふんだんに使った、祭での祝い菓子だ。
 この茶菓子…名をカシパン…は、アヌー連合の『恋人達の祭』で振る舞われる、めでたい菓子だ。
 あっという間にスープ状になるため、急いで熱々を掻き込むのが正しい食べ方なのだ。芳醇な香りがブリッジにたちこめる中、満たされた数瞬が夢のように過ぎてゆく。

 タムの実は生ではヒリヒリ辛いが、乾燥させると辛みよりスパイシーさが増し、火を通せば甘さが引き立つ。調理法によって香も風味もまったく変わるため、珍重されるスパイスだ。
 そしてサバが壊滅したいま、かの大地にのみ含有される特殊な酵素なしでは育たぬタムの木から採れるこのスパイスは、もはや手に入れることを望めぬ貴重な品ともなっていた。


「美味しかったですわ!」
「いや、これほどのものは初めていただきました」

 惜しみない賛辞に笑顔を返すラン。だがそのまなざしの奥に隠された切なげな影に気づいたのは一人だけだった。
「じゃあ俺、鍋洗ってきます」
 挨拶もそこそこにブリッジを出ていくラン。
「兄貴……」
 見送るナオのつぶらな目に、沈痛な色がゆらぐ。

 祭でこの菓子の作り方を習うのは、翌年に成人する未成年だ。そしてランは昨年、この菓子の作り方を習っていた。
 だが、一緒に食べるはずだった乙女は、ムセの料理屋の娘は、黒衣の魔女が星全体にかけた死毒の呪いのせいで、あの日永遠に失われてしまったのだ。

 別宇宙から命懸けで重い真実を伝えにきてくれた客人に、もう作ることのかなわぬ祝い菓子という、なしうる最高のもてなしで応えた兄。その胸中を推し量ることができるのは、この齢の離れた弟だけだった。


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 トウィンクル・ウェイを越えたメビウスは、思わず懐かしさを感じた。
 目前の惑星ファイヤーマウンテンが、光の国の太陽たるプラズマスパークタワーに瓜二つだったためだ。
 違うのは、プラズマスパークタワーがエメラルドグリーンに輝くのに対して、ファイヤーマウンテンは燃え上がる炎の紅に輝いていることだ。

 そしてファイヤーマウンテンでは、北銀河では最大の炎の祭が20年ぶりに催されていて、民たちが陽気に祭を楽しんでいるのが見える。
 広場では大人はワインやエールを手に、子供達も蜜入りミルクを飲んで踊りの輪に加わっている。
 手足が萎えた老人達も輪の外で手拍子をしている。

 北銀河の繁栄と平和を願い、様々な惑星の民が盛大に踊り飲み明かす陽気で愉快な祭。しかし自分が携えてきた真実は、彼らの願いが叶わぬことを告げるものに他ならない。繰り広げられる幸福そのものの情景が失われることが忍びなく、若きウルトラ戦士の心はその優しさゆえに逡巡する。

 だが、今は感傷に浸る時ではないと、手にした小さな筒が呼びかけてくる。
 メビウスは意を決し、祭りのさなかのファイヤーマウンテンの広場へと降下を始めた。


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 トウィンクル・ウェイを抜けたヒカリは、万華鏡の中に入ったような錯覚を覚えた。
 巨大な宇宙鏡がいくつも漂い、そしてその向こうには、星々の輝きを受けて光る、鏡の泉が拡がっている。

 西銀河に棲息している二次元の民は、母星である鏡の星をベリアル銀河帝国の侵攻によって失い、今はこの鏡の泉の周囲に漂う鏡の飛沫に、ひっそりと暮らしているのだ。

 彼らのリーダーに面会すべく、ヒカリはここまでやってきた。だが鏡の泉へと飛び込んでゆく彼は、そこで出会うであろう者のことをエメラナがタロウに話していたのを知らない。そして泉の底で彼を待ち受ける者こそ、かつて二次元の乙女たちより選ばれ『時の鏡』の預かり手としての宿命に身を捧げた、灰色の創造神の巫女でもあるのだということも。
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