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2012年05月10日19:06

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頂き物0−12

『私的ゼロ外伝合作場』コミュにおける綾華☆☆様の物語に更新がありましたのでお知らせいたします。救難信号を発する惑星に駆けつけたジャンバードの3人が坑道の奥で見出したものは、というお話です。

日記の公開設定の関係上、本文を僕のコミュのうちの1つである『お話の預かり所』に置いておられますが、こちらでも公開させていただきます。

どうぞご覧ください。


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『宿命の旅路』第0章−12(綾華☆☆)


 ゼロ、ミラーナイト、グレンファイヤーが惑星ベラの地下神殿を目指していた頃、ジャンバードと共に謎の遊星バラージを探して旅するラン、ナオ、エメラナもまた、羅針盤の紅い針を頼りに果てしない南銀河をさまよっていた。

 バラージの羅針盤は、まるでジャンバードを弄ぶかのように、フラリと針が変わる。
 昨日まで真っすぐ12時を指していたかと思えば、目覚めてブリッジに上がれば、今度は9時を指しているなどザラだ。

 それでも羅針盤の針は、次第に太くはっきりと盤上に現れてきている。
 そしてエスメラルダを旅立ってから、1月半が過ぎようとしていたある日のこと。


「エメラナ、ねえ、まだ二次元の賢者からは返信はないの」
「ええ、あれは二次元の民でも、相当な古代に使われていた、神聖文字だそうです。
 賢者達も、難儀をしているようですが、解読も進んでいるようです」
「羅針盤の針も、日に日に、はっきりして来てる。バラージも近いかもしれないな」

 ブリッジでお茶を飲んで寛いでいるラン、ナオ、エメラナ。
 羅針盤の針が、3人には、前に進む原動力となっていた。

「おや? これは……」
 ジャンバードが何かを感知したらしい。
「これは、救難信号です。12時の方向、1700万リーグ先の鉱星からです」
 3人は羅針盤を見た。
 羅針盤は12時の方向だ。
「ジャンバード、すぐに救助に向かいましょう」
 エメラナが即決した。
「いや、待て。ベリアル軍の罠かもしれない」
 ランが表情を引き締めた。
「なんだよ兄貴。助けを求めている人がいるじゃない」
「だが、この星域はルビンス鉱石の惑星が多い。だから……」
 ランも最後まで言えなかったのは、旅の途中、ルビンシュタインのようにベリアル軍に資源として、惨めな石の塊とされた惑星を、いくつも見てきたためだ。

「姫様、ここはランの決定が正しいかと」
「ジャンバード、方向は一緒だよ。立ち寄って助けに行こうよ」
「命令です。ジャンバード。救難信号へ向かうのです!」
 エメラナが毅然たる態度で、鋼鉄の武人に命じた。

「……仕方ありません。救難信号発信元へ向かいます」
 エンジンのパワーを上げ、加速するジャンバード。



 幸いベリアル軍とも遭遇せず、小さな鉱星にジャンバードは降り立った。
 空気や水もあり、降り立つことも充分に可能だ。

「救難信号は坑道からか。エメラナ、ナオ、ここに残れ。俺1人で行く」
「え、兄貴だけで?」
「3時間だジャンバード。3時間で成果がなければ戻る」

 万一に備え、ガスマスクを付け、コスモガンと爆弾、そして鶴嘴を手に、鉱星に一人降り立ったラン。

 坑道には、トロッコが残されていた。
 まだ、エネルギーも生きている。

 ランはトロッコに乗り、坑道の奥へと進んでいく。

「ラン、そこを左へ。左奥が、救難信号発信元です」
 腕に着けた通信機から、ジャンバードがナビゲートする。

 坑道の行き止まりは、ゲートだった。
 どうやらこの鉱星は、地下で廃坑になった部分に人間が住んでいるようだ。

「おーい! 救難信号を聞いた。助けに来たぞ!」
 ランはガスマスクのままマイクに叫ぶが、応答がない。

 毒ガスは現在はないが、ランには気なったことがあった。
 内側から、密閉されているのだ。
 救難信号を出しておきながら、どういう意味だ。

 ランが周囲を見渡すと、通風孔らしいそれもまた、内側から、塞がれている。

 ランは通風孔へよじ登り、鶴嘴で通風孔をこじ開けた。
「うわっ……」
 目が痛くなるような油煙が顔を直撃する。
「まさか!」
 通風孔からの風に、ほとんど消えかけていた炎がまた、赤々と燃えはじめた。

 ランは全てを理解した。
 この鉱星で働いていた彼らはベリアル軍の脅威が迫ったとき、閉鎖した鉱山に逃げ込み、救助を待っていたのだ。
 たぶん毒ガスが入らないよう、こうして密閉したのだ。
 だがエネルギーが尽き、明かりが消えたため、ついに工作機械の燃料を燃やすしかなくなった……。

 ランの頬に伝う涙は、決して油煙のせいだけではない。

 そのとき、耳がか細い声を捕らえた。
 ランは通風孔から中へ入り、鶴嘴でゲートを叩き壊して空気を通した。
 毒ガスは現在検出されていない。
 壁にもたれる若い女の死体の後ろから、何か聞こえる。



 ジャンバードのブリッジに、通信が飛び込んできた。
「こちらラン。生存者1名を確保。だが衰弱がひどい。至急医薬品や水の用意を!」
 生存者がいた! ナオとエメラナは医療室へ急ぐ。



「あ、赤ちゃん…?」
 ランが連れ帰った生存者は、小さな赤ん坊だった。
 衰弱しきった乳飲み子だ。

 エメラナはミルクを匙で飲ませ、ランは薬を注射する。
 ナオは清潔な布を切って、産着やおむつを作る。
 だが、衰弱があまりにもひどい。

「姫様、ラン、ナオ。ベリアル軍が接近しています。気づかれる前に離脱します」
 ジャンバードは鉱星より離陸した。

「……今夜が峠だな」
 3人、そしてジャンバードは、小さな命を見守る。
 そしてブリッジのエスメラルダ標準時間時計が夜明けの刻を示したとき、苦しみに喘いでいた幼子が一瞬、3人に輝くような笑顔を向けた。

「……」
 ランが首を横に振った。
 エメラナは啜り泣き、ナオは医療室から飛び出して、通路の奥で号泣した。

「泣くなナオ。あの子は頑張ったんだ。たった一人になっても、お母さんが守ってくれた命を、懸命に生きたんだ」
 ランは弟の頭を撫でて語りかける。

「せめて、お葬式をしてあげましょう」
 ランの後ろから現れたエメラナの目は真っ赤だが、もう涙はない。



 小さなカプセルに、エメラナが紙や布で作った花と、名前すらわからない赤ん坊を入れた。
 遥か後ろに見えなくなった鉱星に向けて、ジャンバードはカプセルを放出した。

 この南銀河へ来てからの、初めての人間との出会いと別れ。

「姫様、ラン、ナオ。9時の方向にベリアル軍です。
……相当な大艦隊です。ジャンプで振り切ります」

……カイザーベリアルは倒れた。
 だが、それが遺した悪意はいまだ、こうして宇宙を蹂躙し続けているのだ。

 悲しみを通り越し憤りを新たにする若者と乙女と少年を乗せ、遊星バラージを目指す、伝説のスターコルベット。


−13へ続く
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1844452252&owner_id=7656020


第0章−11
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