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2011年04月23日17:21

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「宿命の旅路」第3話

 黒々とした宇宙空間を飛翔する赤い巨人。筋肉質の体躯の方々から瞬間的にひらめく炎の舌が、内に秘めた強大な力を証し立てている。造形した炎のごとき頭部には目鼻も口もなく、表情を読み取る手掛かりがないように見える。だが暗黒を穿つ赤い弾丸さながらにひたすら突き進むその姿には、激しい憤激がひらめく炎以上にはっきりと認められる。そんな烈火の巨人の背後から、涼やかな思念の声が呼びかける。

「待ちなさい、グレン」

 暗闇の放つ一筋の閃光のように飛来した白銀色の巨人が、赤い巨人の正面に立つ。グレンと呼ばれた炎の巨人の体躯に比べ、優美な印象の勝る細身のシルエットには、しかし直情的な相手とはまた違う硬質の強さがみなぎっている。洗練された兜のような造形美をそなえた頭部の顔面には、覗き窓にも似た十文字の結晶体がはめ込まれているだけのため、やはり表情はわからないが、グレンのように派手な感情の発露がなく言葉使いも丁寧なため、いかにも上品な雰囲気を醸し出している。

「ミラーナイト、なにしに来た?」

 不機嫌さを隠そうともしないグレンに、ため息混じりに語りかける鏡の星の騎士。

「わかっているでしょう? さあ、戻りますよ」
「あいつのとこには帰らねえ」
「短気は損気ですよ、グレン」
「助けられる者だけ助けるしかねえっていったんだぞ! 許せるもんかっ」
「……たしかに言葉足らずだったとは思いますが、ゼロがそんなつもりじゃなかったことくらいわかるでしょう? あなたも彼の言葉より、この状況をどうにもできない自分が悔しくてたまらない。違いますか?」
「ちくしょおおっ!」

 虚空の中で吠えるグレンファイヤー。そのとき頭上から聞こえる新たな思念の声。

「ウルトラマンゼロの仲間だな。奴はどこにいる?」
「ダークロプス!」

 振り仰ぐ赤と白銀の戦士を見下ろす光電子の単眼。その冷徹なまなざしをにらみ上げるグレンファイヤー。

「……不運だったな。俺は今最高に虫の居所が悪ぃんだ。その素っ首ぶっ飛ばしてやらあっ!」

 握る拳を燃え上がらせるや一気に上昇する烈火の巨人。目一つの顔面に叩き込もうとした剛拳を左手で受けるや、右拳を無貌の顔面に炸裂させる機械の魔人!

「ぐおっ」「グレン!」

 吹き飛ぶ赤き戦士めがけ舞い上がり背後から受けとめる白銀の騎士。そんな2人に再び投げかけられる冷ややかな言葉。

「もう一度きく。奴はどこだ」
「ふざけやがってええっ!」

 再び目一つの魔人に挑みかかるグレンファイヤー。だが怒りにまかせた剛打は相手を捉えられず逆に痛撃を浴びるばかり。闘志が空転するばかりでたちまち追いつめられる炎の戦士!

「いけない!」

 大振りをかわし懐に飛び込むや急所に突きを見舞おうとする魔人に、光の手裏剣を叩き込むミラーナイト。後方に跳びすさる敵と息の乱れたグレンの間に身を割り込ませ、油断なく身構える。

「ただのダークロプスではないな。何者だ?」
「ダークロプス・ゼロ」

 無機質な名乗りに、驚きの声を返す白銀の騎士。

「ばかな! おまえは別の宇宙でゼロに敗れ自爆したはずでは……」
「奴から聞いたか。だが俺は復活した。我が主に課された使命を果たすため」

 いうが早いかL字に組んだ腕から放つ破壊光線を、鏡を展開してはね返すミラーナイト。

「私に光線技は通用せん!」
「ならばこうだ」

 体をひねりざまに頭部から投げるスラッガー。跳躍する銀影を追い鋭く螺旋を描く2枚の凶刃!

「野郎っ」

 横から曲り刃を蹴り飛ばすグレンファイヤー。戻る刃へ手を伸ばす魔人に炎の棒で打ちかかる赤き戦士。

「使命だと? ふざけるんじゃねえっ」

 諸手の刃で受けた相手を力任せに押しながら叫ぶ烈火の巨人。

「てめえの親分が散々貪り奪ったあげく宇宙をガタガタにしたんだぞ。こうしている間にも星ごと滅びてゆくものがどれだけいると思ってんだあっ」
「弱きものを食らい強きものが地を覆う。それがきさまら命あるものの宿命であろう。そして主の声ある限り、俺は遺志を果たすのみ!」

 いい放つや見舞う強烈な膝蹴り。くの字に体を折るその首へ振り下ろそうとする凶刃に打ち込まれる光の手裏剣。打ち払う魔人に肉薄し刃持つ両手を封じる鏡の騎士。

「弱肉強食だけが生けるものの理ではない。理知ある者は自他共に生かすため調和を目指すことができる。そうして意識も知性も持ちながら、おまえには理解できないのか。ならばただの操り人形、ダークロプスどもと同じだ!」

 瞬間、ミラーナイトの眼前で一気に光量が上がる機械の単眼!

「あんな屑どもといっしょにするなっ」

 白銀の騎士とぎりぎり押し合う機械の魔人の胸に膨れ上がる白光。腕を振りほどき跳び退く友を庇い立ちはだかるグレンファイヤー。背後から叫ぶミラーナイト。

「だめだグレン! 離れて」

 その言葉もろとも2人の巨人を丸ごと呑み込む凄まじい光の奔流。竜巻のように荒れ狂うそれは虚空を突き破り、戦士たちを時空の彼方に吹き飛ばす。単体で時空を越える能力を持つダークロプスゼロのみに可能な大技が炸裂したのだ。

 なにごともなかったように広がる暗黒の空間に、微かな光を放つ鏡のかけら。目ざとく手に取る機械の魔人。

「帰り道だと? 小癪な」

 だが砕こうとした手がふと止まり、やがてもれ聞こえる独白。

「……盲従するだけならダークロプスと同じか。口の回る奴め。ならばきさまがウルトラマンゼロに伝えろ。いずれ俺が決着をつけにゆくとな!」

 言い残し飛び去るダークロプスゼロ。やがて鏡のかけらから、グレンファイヤーの手を引き姿を現わすミラーナイト。

「くそ、今度会ったら吠え面かかせてやる!」
「だったらもっと冷静に戦わないと。グレン」

 いいつつ虚空を見上げる白銀の騎士。

「何やってんだよ。ゼロのところへ戻るぞ。野郎のことを残らず聞き出してやる」
「戻らないって困らせてたのはどこの誰です?」

 返事も待たずに飛び出していった頑固な戦友を、安堵の混じったため息をつきつつ追うミラーナイト。その胸中に去来する機械の魔人の怒りの表情。自分の言葉が引き起こした意外な反応に思い巡らせつつ、烈火の巨人を追う鏡の騎士。

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