「月下の獣人」第5話(MF〜MF)
数日後の朝、セシリアの待つノースグリーン邸へ向かう馬上でホワイトクリフが告げた言葉に、ロビンは驚いて聞き返した。
「誰かがセシリアのことを調べているの?」
思わず声を上げた薬師の少年を警備隊幹部の制服に身を包んだ青年騎士は身振りで制したあと、油断なく周囲に目を配りながらささやいた。
「数日前から金髪壁眼の若い男が、酒場などで屋敷から聞こえてくる笛はどんな人が吹いているのかと尋ねているらしい。しかもどうやらセシリア殿の名を知っているようなんだ。心当たりはないか? ロビン」
さらなる驚きに少年は目を見開いた。
「ついこないだ屋敷の前で、迎えにきてもらう直前にそんな人に会ったんだ! 暗かったし髪の色も似ていたからホワイトクリフさんかと思って声をかけたんだ」
「なんということだ!」
今度は若きナイトが驚く番だった。
「ならば、そいつはおまえにも注目しているかもしれない。なぜセシリア殿につきまとうのかはわからないが、ノースグリーン卿は近隣諸国との会議に出向かれて1ヶ月はご不在だ。まさかとは思うがこの時期に付け込んでの動きとすれば、よもや利害の対立するいずこかの国の陽動かっ……」
およそ往来で話すにはふさわしからぬ剣呑きわまりない言葉を口走りかけていた青年は、自分を見上げるロビンの不安いっぱいの顔に気付いてあわてて言葉を濁した。
「い、いや。まだそうと決まったわけじゃないが!」
少年を不安がらせないよう一応は配慮したとおぼしきその言葉とはまるでつりあわぬ断固たる表情で、思い込みのいささか激しすぎるスノーフィールド警備隊幹部は虚空をにらみつけた。
「この私、ロッド・ホワイトクリフがいる限り、どこの国の間者であろうと必ず化けの皮を剥がしてくれる。安心しろロビン! 私の指揮下の部隊の総力を挙げて、必ずやその怪しい男をつかまえてやる! 安んじてセシリア殿の治療に専念してくれ。むろんこんな話はセシリア殿の耳には入れてはならんぞ」
そんな話をしながら遠ざかる馬の姿を物陰からうかがった人影が、口の中でぼやいた。
「どうも話がこじれてくるみたいだな。これは思いきってあたるしかないか。だがホワイトクリフとかいうあの男では、話なんか聞いてくれないだろう。頼りはあのロビンという子供か……」
騎馬の二人が歩み去った屋敷への道に視線を投げかけた金髪の青年は、くるりと背を向けるとすでに調べておいた少年の家へと走り去った。
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