ツォウ・シーチンは、ショーン・ベイカーと組んでハリウッドに新風を吹き込んだ立役者の一人です。「テイク・アウト」の共同監督から始まり、今回も脚本をショーン・ベイカーと共同、そして編集をショーン・ベイカーが担当しています。ベイカーは「ANORA アノーラ」(2024)でアカデミー編集賞も受賞してましたね。
物語は、シングルマザーとその2人の娘が台北に戻ってきて、それぞれが新しい環境に適応するという困難に立ち向かいながら、家族の絆を維持しようと奮闘するもの。幼い妹のイージン( ニーナ・イエ)は左利きのため、祖父から“悪魔の左手を使うな”と厳しく戒められます。←“悪魔の左手”って、小林旭かい?
とりあえず、祖父母たちは怪しい仕事で結構羽振りいいのですが、イージンの母親は男運が悪かったりでさっぱり。姉のイーアン(マー・シーユエン)は高校では優秀だったけど、大学へはいけず、高校時代の学友たちから差をつけられているのでした。でも、幼いイージンは、ミーアキャットのグーグーと毎日を楽しく暮らしていた…、という展開。
「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」(2017)も、観光客相手に土産物を売る生活の母親と、貧しいながらも日々を楽しく生きる幼い娘の話でした。娘を二人抱えた母親シューフェン(ジャネル・ツァイ)は、死んだ男の骨を拾ってやるなど、余計な重荷を背負ってしまう。でもイージンは、明るく生きていくのでした。
商店街(といっても屋台が並んでいる程度)の店先から、悪魔の左手で小物をちょろまかすあたり、僕はディズニーワールドに忍び込むムーニーたちと同質の生活感を見ました。それが意外な展開になるあたり、別にそうでなくてもいいのにと思いつつ、男に入れ込む母親の一面や、男の甘言に乗せられて妊娠する姉など、風俗図がさまざまです。
でもって、悪魔の左手が一家を救う?なんてオチは問題ではありません。「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」に出逢ったときの衝撃を、僕はじっくりと味わい直せたわけです。なにしろ「ANORA アノーラ」でアカデミー賞をかっさらってしまったショーン・ベイカーです。今回は盟友を立てて裏方に徹していますが、いい味を出してると思う。
こういう感覚が新しい方向性を獲得していくのです。さらなる飛躍を期待しましょう。
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