『私的ゼロ外伝合作場』コミュにおけるケロンパ!ゴン様の物語が更新されましたのでお知らせいたします。「白銀の城」編の開幕ですが、いきなり混迷の霧の中で回想に深く陥るミラーという展開。どうぞご覧ください。
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「宿命の旅路」第3章 第9話「白銀の城」
「叔母様、この湖は青く光っててとても綺麗ですね」
「そうね。そうね。でも、覗き込んではだめよ」
「どうしてですか?」
「その水の光は、もう一つの自分の姿を映し出してしまうから」
「もう見てしまいました。でも、僕しかうつってないみたい」
「叔母様も覗いてみてよ、とぉーっても綺麗ですよ」
「よかった……まだあなたたちには、裏も表もないのね。でも、私は覗けないの。大人になるとね、いくつもの顔が出来てしまって、鏡の王にその顔を覗かれてしまうから」
「お母様、もう一つの顔を覗かれたらどうなるのですか?」
「そうね、その裏の顔が表の世界に出てしまうかもしれないわ。ずっと心の奥に閉ざされていたもう一人の自分が、表の顔を奥へ閉じ込めてしまうかも」
湖の水を眺めていた二人の少年は急いで湖から背を向けた。
「叔母様、どうしよう! 沢山湖の水を眺めてしまいました」
「僕も……」
「大丈夫よ、まだあなたたちには、一つの顔しか存在していないから。でもね、人は年を重ねるうちに、いくつもの顔を作っていくのよ」
「叔母様はもう一つの顔を見るのが怖いの?」
「そうね、怖いわねとても。その湖に映るもう一つの顔はね、真実の顔とも呼ばれているわ。私は真実の顔を見るのが怖い。怖いの」
「お母様?」
「ごめんさいね。きっと大人は、みんなそういうものなのよ」
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「ミラーナイト、只今参上いたしました」
一面透き通る青白い壁に囲まれた部屋の隅で、白い薄い生地のカーテンの中ベッドに横たわっていた少年がミラーの声を聞き、体を起こした。
「王子さま!」
とっさにカーテンの中、お側役の侍女が少年の体を支えるように少年の両肩を手で支え、ベッドに座らせる。
「大事ない」
ミラーもまた立ちあがったが、少年の声にすぐさまカーテンの前で膝まづいて礼をとる。
「堅苦しい挨拶はやめよう。ミーア、カーテンを開けてくれ」
「王子さま。それは……」
「私とミラーは幼なじみも同じ、それに今日は気分が良い」
ミーアと呼ばれた侍女が薄いカーテンを開けると、表れたその顔は、グレーの肌に目の位置にあたる場所に金色の太い一本線が走り、口元もミラーとは違っていた。
彼の名はヴェール・レトワル・ド・ミラー。通称ミラープリンス、鏡の国の第一王子。
ミラーナイトがわずか7才にして、王子のお側役として仕えはじめ3年の時が過ぎていた。
「ミラー、エスメラルダ王家に第二王女が産まれたのを知っているか?」
「存じております」
「そうか、もう見には行ったのか?」
「はい、王の名代で私の父と共に祝いの席に出席したおりに見て参りましたが、愛くるしいお顔で、来賓の方々に笑顔を向けておいででした」
「そうか、私も出来るならその席に共に出かけたかった」
「姫が15におなりあそばせば、この国へやって参ります。王子と共にこの国を治めるお方ですから」
「15年か、私はそれまで生きていられるだろうか……」
王子は不安げにミラーを見つめた。
「何をおっしゃるのですか! 無理さえなさらなければ、長寿の相と言われてたではありませんか。薬師も、気をつけていれば大丈夫と申しておりました」
「……ミラー、私の願いを聞いてくれるか?」
「いかがなされました? 急に」
「私の代わりに姫がこの国に来る日まで、姫を見守り、守ってはくれないか?」
「私は王子のお側役です。王子のお側を離れるわけには参りません」
「無理な願いは分かっている。本来なら私が行きたいが、この体では会いに行く事もままならぬ。私の代わりに姫の成長を見守ってはくれないか?」
「しかし!」
「予感なのだろうか、ミラー。心が騒ぐのだ……」
叫びに応えた囁きは翳深く、ミーアの手を借りてその身を再びベッドに横たえる鏡の王子。
「15になるまでに姫に、災いがふりかかるような、そんな気がしてならぬのだ。取り越し苦労とそなたはいうかもしれないが、城の外にすら自由に出れぬ私の代わりに……」
「王子……」
「願い、聞いてくれるか」
ミラーは王子の手をとり、深く頷いた。
「王子の目となり、足となり、姫の様子を伝えましょう。姫に何かあれば、この命に変えてお守りし、必ずやこの国へ姫をお連れいたします」
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「……必ず王子の元に」
「ミラー、おいっ、ミラー!!」
突然の大声に耳を直撃され、思わず耳を抑えグレンから離れるミラー。
「グレンっ、何事ですいったい!」
「何事もいったいもねぇーだろ。城の門を開けて中に入ったら、霧の中でよう。全く周りは見えないし、元の場所に戻ろうにも、入った門の方角もわからねぇ。なのに何度呼び掛けてもよ。おまえはぶつぶつ言ってるだけだし……」
あたりは濃い霧が立ち込めている。
そうだ、私はオーブを探しに、この二次元人が建てた城に入ったのだった。表門に入りはしたものの、一向に城の入り口は見当たらない。それどころか、深い霧のせいで、まわりの景色さえ見えず、位置の把握すら出来ずただ歩いていたのだった……。
「なんかさっきから同じ場所を歩いてる気がするんだよな」
「たしかに、この霧の中やみくもに歩くわけには行きませんね。目印をおきながら進みましょう」
そう言うとミラーは、手のひらで小さな鏡をつくり出し、歩いた道に一つ、また一つと置きながら進んだ。もし、その鏡を見かけたら、同じ道を歩いてる事になる。
霧はさらに深く濃くなるように感じた。
それにしても、なぜ、王子と約束を交わしたあの日の事を思い出したのだろう?
鏡を置きながら歩きだしてどのくらいたっただろう。視界に光るものが見える。さきほど自分が置いた鏡だ。
「どうやら一周してしまったようですね」
「やっぱり同じ道を歩いていたのかよ」
「簡単には城に入れてもらえないようですね。グレン、一度整理するためにも、この辺で休憩しますか」
ミラーとグレンは道ばたに腰をおろした。
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