それぞれ同じ場所の、過去と現在を描く第2章および第3章。
この2つの章の、合わせて4つの部分の書き出しです。
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第2章 アーレス
=あの寺院からほんの数日でイルの村だ=
左の瞼に閉ざされた空ろな眼窩の夢の中、明るく告げる姿をなくした父の声。
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「侍祭たちが狼を追い払ったとき、女の子はこと切れておった。身を挺して赤子のあなたを守ったのだ。誰もがあなたの姉に違いないと思った。でも本当にそうだったのか、なにしろ名前すらわからぬままなのだ」
往時を知るという老いたる修道士の言葉に、グロスは涙しながら印を切り、霊廟の隅の小さな柩に頭を垂れた。アラードも胸に迫るものをこらえつつ、ボルドフに倣って瞑目し無言の祈りを捧げた。
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第3章 村外れ
閉じた右瞼の奥の緑の瞳に焼き付いたあの炎。燃える納屋から転げ出た火だるまの父を、駆け寄った母を打ち抜く矢の嵐!
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「そなたなぜ20年もたった今になって現れた!」
夢の中、真正面に仁王立ちになった老いたる高僧が錫杖を突きつけ一喝した。アルデガンの長にして最高の使い手たる大司教ゴルツその人だった。
「仮にも神に仕える者として修行をした身でなんたるありさま。この世での妄執から解かれ、神の御元へ還るがよい!」
瞬間、煮え返るような怒気が胸から突き上がり、呪詛の叫びと化して喉から迸った。
「私に神などという言葉を吐くな!」
とたんに空色の目が見開かれ、幻は霧散した。狭いうろの闇の中、リアは脂汗にまみれた身を起こした。
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