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2007年10月04日13:24

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語り残されたお話の素材1

<最果ての森の闇姫>

 大陸の北西部に広がる最果ての森に棲む吸血鬼。

 1000年前にこの森の中にあった小さな王国の王女であり、森を愛する乙女であったが、吸血鬼の祖である白髪の乙女の牙にかかり森の中で転化を遂げた。
 森の木陰を映したような大きな緑の目と豊かにうねる黄金の髪を持ち、言葉さえ失われるほどはるかな昔に滅びた小さな王国の簡素な冠を頂いている。その言葉は上古の言葉であり、魔術士の呪文になごりを留めているため高位の呪文に通じた魔術士だけがわずかにその意味を捉えることができる。

 森の加護を受ける身であったため転化した後も森の守りの力が彼女を守護している。だが白髪の乙女の牙を受けて転化したその身が放つ強大な妖気は森にも影響を及ぼし、森それ自体が意識に目覚め彼女と意志の疎通を可能とするまでに至った。

 森の暗がりの中で転化したため、彼女は森の外では昼間に活動することができない。したがってその行動範囲は夜の間に森まで戻れるところに限られる。
 しかし、人間が近づかなくなり斧が入ることがなくなった森はじわじわと勢力を伸ばし続け、長い年月をかけて大きく広がった緑の闇に多くの村々や国々が呑まれ沈んだ。

 死んで転化した者であるので人間であったときの記憶は失われており、彼女は長い間自らの由来を疑うことなく出会う者を無心に牙にかけ続けた。しかし、あるとき彼女は自分がかつて人間として日の下を歩いたことがあったというただ1つの記憶だけを取り戻してしまった。自分が最初からいまのようではなかったことを悟った彼女はもはや無垢ではいられなくなり、不安と哀しみがその心を染め上げた。
 いまや彼女は出会う者すべてに忘れられた言葉で問いかけずにいられない。私は誰だったのか、私は何者だったのかと。


 意識と魔力を持つに至った森は、瞬時に森の中の望む場所へと彼女を転移させることができる。したがって広大な森の縁の彼女の行動範囲に人が入れば、たちどころに彼女はその者の近くまで跳ぶことができる。逆に強力な敵からも森は彼女を遠ざけることができる。200年前にアールダが彼女を逃したのもそのためであり、彼女はアールダが出会いながらも唯一滅ぼすことができなかった吸血鬼である。

 種族としての人間の命運そのものに縛られているゆえに人間の力を受け付けない白髪の乙女を別にすれば、最果ての森の闇姫は彼女自身が最も強力な吸血鬼である上に森の意志と魔力にも守護された比類なき存在である。白髪の乙女と異なり解呪の技は有効ではあるが、並みの術者では1人で彼女を解呪することは不可能であり、森の守護の力を絶ち切りつつ解呪するには複数の術者を必要とする。

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