mixiユーザー(id:263792)

2022年08月06日19:01

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351冊目『そして、海の泡になる』

葉真中顕著

“北浜の魔女”の異名をとる天才投資家「朝比奈ハル」
戦中〜戦後〜高度経済成長期を駆け抜け、バブル崩壊で表舞台からその姿を消した。
神秘のベールに包まれた彼女の人生が今、関係者へのインタビューで甦る。

エース葉真中先生登場、しかも得意の転落モノ(正確には成り上がりモノですけど)。
まさに鉄板の布陣。面白いのは百も承知。
それだけに思い浮かぶのはコレ『絶叫』→208
https://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=263792&id=1956736457
の圧倒的存在感。

見て見て閲覧数千回越え、ウチで一番回ってますから。
書架から引っ張り出して面白そう!となった瞬間、でもやっぱ『絶叫』にゃ勝てねぇだろうなぁという期待と諦観が同時発生するっつーね。まあ葉真中作品あるあるです。

それともう一つ心配なことが、、、薄い、三百項弱。
嫌な予感はしてましたけど、当然ながら全然読み足りない。
面白いです。でも葉真中先生ならまだまだ盛れるだろうというのが正直な感想。
対話体ではなく、「朝比奈ハル」をガッツリ主人公に据えた王道で読みたかったかも。
恒例の叙述トリックにも驚かされましたが、肝心の「朝比奈ハル」への感情移入が今一つ。
ようやくハルさんの全容を掴んで、細部をもっと知りたいってところで終わっちゃう。
一週間でサクッと読了、前菜食べてもう終わり?みたいな感じ。まだお腹ペコペコなんですけど。
っつーわけで全く腹一杯にはなってないけど美味いです、味の方は保証付き。

そーね、先ずは、、、相変わらず時事の取り込みが天才的。
今現在も継続中のコロナ禍を巧く取り込んで、作品のアクセントにすることに成功してます。
現在から過去へ、令和〜平成〜昭和と数十年の時を経て読者の意識をその時代へ軽々と送り込みます。
まさに「時代を描く作家 葉真中顕」、軍国主義一色の戦中、貧困と混乱の戦後、希望の高度経済成長、そしてバブルの狂騒と崩壊。
関係者が語る彼女の激動の人生は臨場感たっぷりで、ちょっとした時間旅行気分。
まあね、バブル当時は地方の高校生だったんで空前の好景気の実感は全くないんですけど。就職が楽勝だったぐらい?
でもそのリアルな筆致から、当時の雰囲気は充分伝わってきます。

そんな激動の時代を駆け抜けた朝比奈ハルを語るうえで、重要なキーワードが「ワガママ」
戦時中は御国のためと自分の気持ちを抑えつけられ、戦後は貧しさと価値観の喪失に打ちのめされ、高度経済成長期には社会を男たちが牛耳っているという現状、厳然と存在する性差別に愕然とさせられる。
戦後民主主義で精神的に自由になり、経済成長で貧困から抜け出したとはいえ結局は自分の思い通りにはならない。
どうすれば本当に自由に生きられるのか?
もう諦めたり我慢したりするのは真っ平御免、何が何でも自分の気持ち「ワガママ」を貫き通したい。
模索するハルさんが辿り着いた結論は「お金」、経済的に完全自立すること。
お金さえあれば、ひもじい思いをすることもないし、やりたいことを我慢することもない。男に頼らずとも自分自身で自由に生きていける、自らの意志「ワガママ」を貫き通せる。

ッ!?
どっかで聞いたような、、、これって、、、『バキ』じゃんッ!!
まさかまさか葉真中先生、板垣イズムの正統後継者とはw

武力と財力の違いはあれど本質は一緒。
そうなんです、基本この世は“力”で動いてるんで。
平時が経済力で有事が武力。
この二つが今現在この世界で最も強い“力”、悲しい哉、愛や正義はまだこの二強に勝利していません。
私も“力”の信奉者ですけど、勿論その暴走は抑えなきゃいけないってことは理解してます。
まさに極限まで武力が暴走したのが太平洋戦争であり、経済力が暴走したのがバブル経済なわけで。
ハルさんはその両方を歴史としてではなく、人生として経験している。
今作はフィクションですが、語られる内容はまさしく我が国が辿ってきた歴史そのもの、これに学ばない手はありません。
読者も個人であると同時に一人の日本国民でもあるわけですから、物語としての面白さ+αとして何かしら得られるものがあるのではないでしょうか。
何つってw っつーか、また本の感想じゃないじゃん(哀)

追記
モデルいるんですって、マジか。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%BE%E4%B8%8A%E7%B8%AB
まさに事実は小説より奇なりですな。


特濃なのに薄過ぎ
★★★☆☆
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