甕は使ってないが詩には書く

８月になりました。で、「８月の詩」を。

少し前に一編書いて詩誌に送ったが、活字になるには時間がかかるので新作を書いた。
タイトルは「甕」だが、書いてから、自分たちは現実には甕だの壷だのは使ってないよなぁと思った。少なくともわが家ではないような気がする。念のため陶芸をやっているカミさんに訊いたが、ぬかみそとかはホーローの容器だし、土鍋はあるがそれは煮炊き用具なので壷・甕はないとのことだった。現代では生活用具としてはすでに姿を消していて、象徴的な存在になっているのだなぁと思う。

パンドラの箱も本当は「甕」であったが、現代にはそぐわないので「箱」と言われるようになったのだろう。時どき「筺」など難しい漢字を使う本もあるが、あれは古さを強調しようという、ささやかな抵抗なのだろう。「パンドラ（Πανδώρα）」は「パン」（全ての）「ドーラ」（贈り物）から付けられた名前だが、ゼウスが人間にあらゆる不幸を封じ込めた甕とともに贈ったものだ。プロメテウス（先に考える者）は弟のエピメテウス（後で考える者）にゼウスからの贈り物をもらってはいけないと戒めていたが、パンドラの美しさに惹かれて結婚してしまった。おまけに、きれいだがおばかさんのパンドラは誘惑に抗しきれずに甕をあけてしまう。人間に与えられたあらゆる災厄、不幸、疫病の中でも最高のものは「女」（人間では最初の女性がパンドラである）だという考え方に私は反対します（←明らかに女性に嫌われたくないための発言）。それに最後に甕の中に残されたのが「希望」だったというのも、ゼウスから見ると「不幸」のひとつであったのだろう。「希望」こそは最も人間に悲しみと苦痛をもたらすものかもしれない。しかしその点だけはプロメテウスの未来を見る目を信じたい。しかし、それ以外は、私はエピメテウスとパンドラの味方である。考えの足らぬ彼らはあらゆる動物に幸福を与えようとして人間が生き延びるために必要なものを何も得なかった。愚かな弟のためにプロメテウスは仕方なく神から火を盗みあらゆる生物の頂点に立つことになったが、人間同士の戦争も火によって止むことがない。

以上の話は詩には全く関係ありません。ただ、「甕」です。遠い昔、舌足らずの若い女性に「かめてさん」と呼ばれたことがあったような気がします。神の手ではなく甕から出た手を想像してください。

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