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2017年05月19日17:36

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カトーとは誰か

『人間の条件』(ハンナ・アレント)の最終行はカトーの引用であったが、その意味するところをより理解したいと思った。この場合のカトーとは小カトー(マルクス・ポルキウス・カト・ウティケンシス)のことだと思い、プルタルコス『プルターク英雄伝』(9分冊)を読んだ。しかし、それに類した発言が見当たらない。そこでその祖父である大カトー(マルクス・ポルキウス・カト・ケンソリウス)の項(5分冊)も読んでみた。

思いのほか大カトーは多くの警句を残しており、案外この人の発言かもしれないと思ったが、どちらかというと実用的な思想の持ち主でややニュアンスが違う。結局そこにも、件の言葉はなく結局どちらかは不明のままである。

ストア派の哲学者でもあった小カトーはカエサルが最終的総攻撃を行なう前に自決した。周囲がそれを阻止しようとし、割腹自殺した彼を治療までするが、覚醒したカトーは臓腑を自ら引きちぎり死ぬ。その直前、プラトン『パイドン』(ソクラテスが毒杯を仰ぐ直前まで魂について語った対話篇)を二度読んだという。カエサルは駆けつけてその死を前にこう語った。「おお カトー、君の死は口惜しい。君は命を私に救わせてくれなかった」。実際、彼はカトーを尊重しており嘘ではなかっただろう。むしろ命を救うことで名声を得られたはずだ。彼は敗北させた敵を多く赦したことで知られている。

このカトーの死に臨む姿勢に対しセネカは最大級の賛辞を捧げている。そのセネカも最後はかつての教え子である皇帝ネロの命令で自死するが、その伝えられる最後の場面は壮絶である。話がそれたが、自死の系列なのでつい書いてしまった。ところで、アレントのことを書いた日記で誤記をした。ちくま文庫のプルタルコスの書を『対比列伝』と書いたがこれは原題の直訳で、ちくまの和訳は『英雄伝』である。岩波版は1991年といっても昔の版の復刻なので漢字も旧字でいろいろと古いのでちくまが読みやすい。だが小カトーが読みたければ岩波版だろう。(ちなみに第9分冊は94円でアマゾンにあったが、ここにはアレクサンドロス、カエサル、フォーキオーン(この人はよく知らない)、小カトーと、人気者揃いで、お買い得である。)

どっちのカトー?から、カトーとは誰なのかという問いに変わりつつある。アレントが現代の人間のあり方を論じた時に引用した2100〜2200年も前の人の言葉はどのような世界の中で発せられたのだろうか。「なにもしないときこそ最も活動的であり、独りでいるときこそ、最も独りでない」。人間の活動における「思考」が鍵となりそうなのだが……。
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