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2019年10月31日22:06

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本棚211『魔法の夜』スティーヴン·ミルハウザー(白水社)

 「汝、夜を昼に変える 目も綾に眩き女神」

 エピグラフから、妖しげで幻想的なミルハウザーの世界へと誘われる。白い月の光が指し、暖かさと涼しさが入り混じったアメリカ東海岸の夏の夜の濃密な空気。月の光を浴びて屋根裏の人形たちは動き出し、マネキンは街を歩き、様々な群像の一夜の出来事が描かれる。
 短な断章を連ねる、精巧なドールハウスや細密画のような文章。緻密に描かれたイメージの洪水。筋や意味を追うのではなく、文字の奔流に身を委ねるのがこの本の正しい読み方だろう。はじめは読み慣れない文章に少し戸惑ったけれど、次第に幻想と叙情と若干の哀感を帯びた文章の波に上手く乗れるようになった。
 
 「木々が壁を作る小さな秘密の場所、木々に囲まれたささやかな部屋の中で、まばゆく明るい一隅にローラは足を踏み入れ、月に向けて顔を上げる。月があまりに明るいので、彼女は目を閉じずにいられない。顔を上に向けたまま彼女は立っている。小春日和のときに人々がこうしているのを見たことがある。紅葉しかけた木の葉のかたわらで、みんな目を閉じて立ち、明るく光る顔を太陽に向けていた。彼女の太陽は月であり、熱っぽく冷たい。氷の炎が両腕を伝って降りてくる。彼女は月の娘。私に触って。触って。」
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