森で拾われた仔ネコは、実は新種レオパドラス・ティルカヨだと分かった。
◎ゲノムの解析が基準に
種を分類するうえで重要になるのは、かつては尾の長さ、ロゼットの大きさ、歯の形状といった身体的特徴の違いだった。しかし今では、ゲノム解析が標準的な評価基準になりつつある。理由は至ってシンプルで、肉眼では捉えきれないことまで読み解くことができるからだ。
前述のエイジリク博士は、「私たちは25年ほど前からタイガーキャットの研究を続け、オセロット属(Leopardus)の全容を整理しようとしています」と話す。実際、ゲノムの深淵に踏みこむことで、そこに隠されていた多様性が明らかになりはじめている。
◎人目を忍ぶ小型のネコ科動物では分類が難しい
前述のように当初はノガレス・アスカランス氏は、新種のネコはノーザンタイガーキャットだと考えていた(写真=ノーザンタイガーキャット)。
しかし2013年に、この種が実際には2つの異なる種で構成されている証拠が提示された。さらに2024年には、遺伝的に異なる別の種としてクラウドタイガーキャット(L. pardinoides)を切り離す論文が発表された。本研究は、ティルカヨを含め、タイガーキャットを5つの種に整理するものだ。
エイジリク博士は、「単一の種だと考えられていたものが、実は複合種群であったことが分かってきた」と言う。
トラやユキヒョウ、ライオンなどを含むヒョウ属(Panthera)では、このようなことは起こらないだろう(写真=サバンナで暮らし、それだけに昔から多くの研究者に調べられているライオンには前記のようなことはない)。しかし、野生の小型ネコ科動物の研究は圧倒的に遅れている。しかも彼らは、人目を忍ぶ天才だ。トレイルカメラ(自動撮影装置)で撮影した写真でさえ、種を識別する証拠として十分ではない場合もある。
◎ティルカヨは140万年前に新種として分岐
例えば、今回の研究でも触れられているある博物館の標本は、ボリビアで最初に採集されたノーザンタイガーキャットとされていたが、うなじの毛の向きから、後に別種の密林のネコである「マーゲイ」(写真)であることが判明した。
現代のゲノム科学を駆使すれば、写真や実地調査で見落とされがちな細かい違いまでつまびらかになる。今回の研究では、オセロット属に属する38の個体の全ゲノムを比較した。その結果、ティルカヨのゲノムは他のタイガーキャットのゲノムとは異なること、しかもティルカヨが140万年ほど前に枝分かれしていたことがわかった。
「小型野生ネコ科動物保護財団」の創設者で代表を務めるジェームズ・サンダーソン博士も、「新種のタイガーキャットの発見自体が驚くべきニュースだが、この結果は、オセロット属の小型ネコをどう分類するかを大きく変えるものだ」と述べる。
◎マーゲイも4種の可能性
実際に今回の研究では、ノーザンタイガーキャットの新しい亜種(Leopardus tigrinus antisuyo)がペルーに生息している証拠も提示されている。
また、サンダーソン博士によれば、メキシコからアルゼンチンにかけて広く分布するマーゲイが、実は1種ではなく4種に分かれる可能性もあるようだ。IUCN(国際自然保護連合)のネコ科専門家グループにも所属するサンダーソン博士は、「研究によると、およそ100万年前に共通の祖先から枝分かれした4つのマーゲイの種が存在する可能性がある」と述べた。ただし、エイジリク博士は慎重な姿勢で、マーゲイの遺伝についてさらに詳しく研究しないと何とも言えないとしている。
サンダーソン博士は、今後このような発見がますます増えるだろうと予測する。「今回の改良された手法を使えば、アフリカやアジアでも新種の小型野生ネコ科動物が見つかるかもしれない。これは決して飛躍した想像ではない」と言う。
◎保護活動への影響も
こうしてネコ科動物の系統樹に新たな枝が追加されていけば、現実の自然保護活動にも大きな影響が及ぶことになる。種の保全状況を左右する重要な要素の1つに、地理的分布がある。エイジリク博士はこう述べる。
「タイガーキャットがブラジル南部からコスタリカにかけて生息する単一の種だと考えれば、絶滅の危険度は低く評価されることになる。しかし、実は5つの種だったことが分かれば、それぞれを個別に評価し直すことになる」
サンダーソン博士によると、それによって保護活動の緊急性が高まることになる。3種だと思っていたものが5種に分かれれば、それぞれの個体数は減ることになる。保護活動は強化しなければならず、推定個体数によっては急を要するだろう(現時点で、野生のティルカヨの生息数は分かっていない)。
◎哺乳類でもまだ未知の新種があることを証明
世界の大部分はすでに解明されていて、発見すべきことは多くはないと思ってしまいがちだが、ティルカヨの発見は、実はその逆ななのだということを示した。
今や、新種の発見は珍しいことではなくなっているが、ほとんどは昆虫や微生物など、微小な生物の発見だ。それは当然のことだ。微小生物は目立たず、見つけるのも難しく、私たちの理解が及ばないことも多い。だが、今回見つかったのは、体重わずか2キロほどのネコ科の動物だ。
ノガレス・アスカランス博士はこう話す。「ネコ科の動物にさえ、まだ見つかっていない種があった。私たちには、出かけていくこと、探し出すこと、そして守ることが必要なのだ」。
注 容量制限をオーバーしているため、読者の皆様方にまことに申し訳ありませんが、本日記に写真を掲載できません。
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