「スペイン古文書を通じて見たる日本とフィリピン」奈良静馬著、2021年経営科学出版発行。
16世紀、フィリピンの利権を巡り当時の世界最強国であったスペイン王国と対等に渡り合ったとされる豊臣秀吉の外交力をクローズアップ、という添え書き本を読みました。改めて戦国時代における日本の立ち位置が分かる人には分かっていたんだなあ、という感慨、そして、世界の中でどういう立ち位置にいたいか、なりたいか、世代が変わっても長期的な展望を持ち続ける事の出来る民族なのかどうか、国家なのかどうか、、について考えさせられました。想定外の事件や事故は必ず起こりますし、不可抗力の異変も起こり得ます。
が、個人でも、組織でも、その場限りの、目の前の時代を生き抜くだけで精一杯なのが大半かもしれませんが、遠い先をしっかりと見ながら目の前のスケジュールをこなしていく人間も少なからずいるものですなあ。読書中に残しておきたいと思った箇所を以下にメモっておきました。
1594年8月、秀吉を騙して京都に建造されてしまったノートルダム デ アンジュで布教が行われた。京都にいたイエズス会派の司祭や信者らは秀吉の怒りを恐れて布教する事に反対したのに、フランシスコ会教父達は傍若無人にも布教を止めなかった。フィリピンでは、フランシスコ会派によるイエズス会派への怨みも生じた。
フェリペ二世死去の五日後に秀吉も死んだ、当時の世界二大英雄ともいえる二人のほぼ同時期の死去→家康とフェリペ三世の時代へ。フェリペ二世亡き後の17世紀初頭、フィリピン太守ドン ルイス ダスマリナスの後任としてフィリピンへ赴任するペドロ デ アキュナに対するフェリペ三世による勅諭からは、財政に疲弊し、世界制覇を目指したかつてのスペインの国力が弱体化して来ている様子が窺え、スペインに併合されていたオランダが離反し、植民地から黄金の移入は止まり、農民は怠惰で内外共に多難な時代に突入した。フェリペ三世の時代にスペインがヨーロッパの二等国へ転落していく状況を止める事は出来なかった。
日本在住のフランシスコ会司祭ヘロニモ デ ジーザスは日本とフィリピンを往復し、フィリピン太守からの「スペインへ条件を付けて国交を迫る家康に対しては、機嫌を損ねず曖昧な態度で時間稼ぎせよ」旨の命を与え、ヘロニモも日本においてはそのように取り繕った。着々と日本におけるキリスト教宣伝工作を進めたヘロニモは1602年末に家康から教会建設敷地を貰う事に成功し、やがて江戸に初めての教会を建てた。
1603年、Parianというマニラ郊外の街で発したスペイン人と支那人の間でトラブル発生、スペイン人は日本人傭兵を雇って10月5日に鎮圧化を図った。スペイン人は先頭には立たず、日本人傭兵を先頭に立たせて戦わせた。
←スペイン側の視点で見ると、中南米征服の際にも、自らによる表面上の直接統治を極力避け、間にクッションを入れて現地間接統治を図る考えが昔から常態化していたのでしょうか？
1605年、家康はフィリピン太守ペドロ デ アキュナに対して書簡を送り、フィリピンから四隻中の一隻であるアントニオ号が日本の法律を守らなかった事を引き合いに出し、貿易は希望したけれどもキリスト教の布教を固く禁じた。
1609年7月、マニラを出帆したスペイン船三隻がメキシコに向かった。
�．汽� アンドレス号のみ辛うじてメキシコへ着いた。
�▲汽鵐� アナ号は豊後海岸に漂着、留まる13日間に修繕して、メキシコへ向かった。
��サン フランシスコ号は9月30日に房州海岸（現千葉県御宿町）に漂着。フィリピン太守にして参議院長のドン ロドリゴ ビベロがその任期を終えて本国へ帰る為に乗っていた。ビベロが乗って来たサン フランシスコ号は完全に破壊していた。
1610年、家康と秀忠はキリスト教司祭アロンソ ムニョスという者を使節としてスペイン王への書簡及び贈り物を持たせて、隅田川に繋留中のウィリアム アダムスの造った船をサン ブエナ ヴェンチュラと命名しビベロら一行を乗せて出帆、メキシコ アカプルコに着き、更にスペインへ帰り大歓迎を受けた。
←因みに、ウィリアム アダムスとは、関ヶ原の戦いの約半年前の1600年4月29日（慶長5年3月16日）にウィリアム アダムスらが乗ったリーフデ号が豊後国臼杵の黒島に漂着。その後、江戸時代初期に家康に外交顧問として仕えたイングランド人と航海士、水先案内人、貿易商で、日本名は三浦按針、サムライの称号を得た最初の外国人だった、との事。
1600年の関ヶ原役にも、多くのキリスト教徒が豊臣秀頼（秀吉の三男、秀吉側室の茶々の第二子）に加わっていたが、家康は秀頼と最後の一戦を交える前に、キリスト教徒の処分をしておく必要があると思った。秀頼は高山（右近？）を自分の軍に招こうとしたが、時すでに遅く、高山がマニラの向かって出発の後であった。
1616年、家康の死後、フィリピンのスペイン人達は、日本におけるキリスト教禁制はもう解かれたと思った。が、1616年8月、二代目の徳川秀忠は、新たにキリスト教禁止令を出し、一層厳しくした。
1618年、五千余命の日本人キリスト教徒が徳川幕府によって処刑された。
1623年、徳川二代将軍 秀忠は、その子 家光に将軍職を譲った。家光のキリスト教嫌いは秀忠以上であり、キリスト教は日本にとって有害無益であるとの確信から、処刑は毎日の如く行われた。マニラのカトリック監督フレー ミゲル ガルシア セラノからの要望を聞き入れたスペインのフェリペ四世が日本への渡航禁止勅令を出したが、にも関わらず、フィリピンから司祭達の日本への潜入はなかなか止まらなかった。
1630年、徳川幕府の眼を逃れるために乞食を装っていた多数のキリスト教教徒が捕まり、フィリピンに追放された。
1637年に勃発した島原の乱はフィリピンのスペイン人達がけしかけて日本における内戦や革命を画策した節がある。
1639年、家光は長崎からオランダ人を含む全ての外国人を放逐した。
19世紀中旬、イギリスとフランスが競争してキューバを奪おうとしている中、米国は陸海軍全力でスペインのために援助を与える事を約束した。米国が領土拡張欲に刺激されてメキシコ戦争を起こし、広大なメキシコ領土を併合して味をしめて以来、その領土欲は一層強くなった。ことにカリフォルニア獲得後の米国人は、政府からの奨励を待たず、続々としてキューバに入り込み、我が儘勝手な振る舞いをした。
フィリピンが明治31（1898）年から昭和17年1月まで約45年間米領であったのは、米国がスペイン領キューバ島を自己の保護国下に置くために、スペインと行った戦争の偶然の派生的結果だった。米国は、商業上からみても軍事上からみてもキューバはどうしても自分の手に収めておかなければならぬ所で、既に第三代大統領ジェファーソンの時代から、米国はキューバに対して特殊の関係を有する事を内外に表明している。
1898年4月24日、スペインの宣戦布告、「Remember the Main」という米国人民の言葉を背に米西戦争へ突入してしていった米国の様子。
←これらの記述には、その後、まるで何がなんでも日本との開戦を誘き寄せようとする米国の姿と、まんまと？米国との戦争に巻き込まされてしまった日本を思い起こさせられました。
ログインしてコメントを確認・投稿する