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2023年09月14日05:15

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酒井佑子の歌(9)

猫が死んで残した皿一枚碗一つこのやうにこそあらめわが身は  (「短歌人」2021年6月号)

…「あらめ」は「あらむ」の已然形。この場合の「あらむ」は意思の「む」、已然形はその強調だろう。猫が死んで残した人一人、としてのわれ。猫がいなくなればその用在性は消えて単体のわが身となる。この世の腐れ縁のたぐいはすべて腐れ尽くして絶えてしまった。そうありたいものだ。作者を多少なりとも知っている読者としては、ああ、いかにも酒井さんはこんなふうに言われそうだなあ、と思って読んだ。初句6音、2句10音、いかにも酒井節だが、3句以下は音数通りで撓むことなく詠み収められている。

家々は鎖(さ)してひそけき三更に道あり道はどこへも行かぬ  (「短歌人」2021年8月号)

…「三更」はちょうど真夜中の頃。家々は鎖されひと皆眠りに就いてあたりは静まっている。作者は寝つけずに外に出てみたのか、あるいは床の中での想像だろうか。歩く者とていないけれども道は昼間と変わらずそこにある。道は何処かへ行くためのものだが、道自体は何処へも行かずにただ存在している。何ほどのことでもないことを言うている歌だが、しみじみとした味わいがある。眠れない夜に心の中で反芻してみたい一首だ。


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