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2023年09月13日05:18

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酒井佑子の歌(8)

ひとつ残れる最後の猫は少しづつ暗くなりもう遊んでくれぬ  (「短歌人」2017年12月号)

…初句・2句から、多くの猫を飼っていたところ、もはやこの猫だけになってしまったという事情が一読わかる。「ひとつ」というのも味わい深い。ただの猫なら一匹、二匹だろうが、“自分にとってかけがえのないもの”であれば、ひとつ、ふたつと数えるだろう。猫はありがたい存在で日々遊んでくれたのに、もうそうしたこともなくなってしまった。弱ったとか呆けたとか言わず「暗くなり」と言うあたりにも猫愛があふれている。

あ、然うです 電車とスーパーマーケット素手でさはれるものだけが好き  (「短歌人」2019年3月号)

…「あ、然うです」と、いかにも誰かの発語への応答のように詠み出される一首である。おそらくその誰かの発語は、「短歌研究」2019年1月号の坂井修一と斉藤斎藤の「対論 どこへ行く、短歌!」のどんじりでの坂井の「世界がビッグデータとアプリソフトでできていると見えているか、スーパーマーケットと電車でできていると見えているか、もう一緒にはできない」、だろう。若きエンジニアよ、図に乗って時代と寝るなよ、と酒井さんは言いたかったのだろう。それにしても電車…というのも産業革命以降のもので、対・サカイとしてのサカイとしてはとりあえずこう言うが、ほんとうは地とか樹とか言いたいところである、のではなかっただろうか。

右にゆたんぽ左に猫をいだき寝てわづかに猫の重きことかはゆ  (「短歌人」2020年3月号)

…こんなふうに寝ていれば、寝るということもなつかしい時間だろう。ゆたんぽもまた猫のごとし、猫もまたゆたんぽのごとし。どちらも同じぐらいの重量だが、猫の方がわずかに重く感じられる。あるいは猫はわずかにであれ動くから、そう感じるのかも知れない。それを「かはゆ」と言い収めたのがいい感じだ。「マスク一箱4000円だって」「高!」とかいう時の「高!」は、「高い(高し)」の「い(し)」を抜いたかたちで、「かはゆ」も「かはゆし」の「し」を抜いたかたちなので同型なのだろうが、「高!」と「かはゆ」はこんなにも違う。


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