mixiユーザー(id:263792)

2022年07月17日09:56

481 view

350冊目『最終飛行』

佐藤賢一著

おッ!「ロッキード P-38 ライトニング」じゃん♪
表紙を見た瞬間テンションが上がる↑
P-38で、、、最終飛行?、、、すわッ「海軍甲事件」かッ!?
ワクワクしながらパラパラ捲ると、南太平洋じゃなくてフランスの周辺地図が。ヨーロッパ戦線か、、、
まあ、P-38が出てくるっつーことは、戦記モノであることは間違いないので借りることに。
俺、レシプロ戦闘機大好物なんです♪

どれどれ、、、

まさか、あのサン=テグジュペリが第二次世界大戦に従軍していたとは。
しかも戦闘機(偵察部隊)パイロットッ!!
世界的作家にして戦闘機乗りとは、大谷選手もビックリの超二刀流。
勿論俺でも名前ぐらいは知ってますとも、、、『星の王子さま』の人でしよ?、、、って、それしか知らんけど。いやぁ〜〜浅学でお恥ずかしい。
今回佐藤先生の作品を通して、人生で初めて「サン=テグジュペリ」という世界的な作家と向かい合ったわけですが、非常に興味深いキャラクター。
何せ上記ぐらいの知識しかありませんもので、佐藤先生がどれくらい脚色してるか皆目見当が付きませんが、憎めない問題児にして愛すべきトラブルメーカーって感じで主人公オーラ全開。
っつーか、我らがサンテックスのキャラが強過ぎて脇の印象が薄い薄い。
片仮名の人名も地名も全然頭に入ってこない(哀)
巻頭の地図は有難かったですが、登場人物一覧表も必須也。

圧倒的なドイツ軍に押しまくられフランスから渡米、アメリカ国内で参戦運動を展開し自らも北アフリカ戦線へ。
連合軍の反撃態勢が整いイタリアへ進出、祖国フランスの解放を目前にしながら帰らぬ人となったサン=テグジュペリの第二次世界大戦を描く。

歴史的事実なんでネタバレもくそもない、そもそもタイトルが『最終飛行』なんですから。
読了後すぐにwikiで確認しました。
大作家でパイロット、これだけでも凄いインパクトなのに、まさか戦死なさっていたとは。
四十代(戦闘機パイロットとしてはありえない高齢)で世界的作家ということもあり、周りは何とか彼を前線から遠ざけようとします。
わざわざ君が戦場で銃弾をかいくぐらなくても、その知名度を生かして広報や言論でドイツ軍に打撃を与えればいいではないかと。
しかし安全な後方に下がることを良しとせず、空を飛び続けたサン=テグジュペリ。
彼の愛国心と勇気、ノーブレスオブリージュの精神に胸が熱くなりました。

がッしかしッッ P-38に乗るまでが長えぇぇぇーーーッ!!

前半のウダウダ振りはそりゃもう、かなりのもんです。
祖国の空では我が物顔で暴れまわるドイツ軍機に追い回されいいとこなし、アメリカ参戦を訴えにニューヨークに来たものの、孤立主義真っただ中のアメリカ人たちには響かず。
ならば本業の執筆活動はというと、戦局が気になってとてもそれどころではない。
最愛の妻との関係も息詰まり、顔を合わせれば喧嘩ばかり。
八方塞がりの我らがサンテックス、どうするかっつーと、、、ズバリ女遊びです。ってオイッ!
いやぁ〜〜モテモテじゃんサン=テグジュペリ先生。
巨漢にして(タッパも凄いけど横も凄い)淋しい頭髪、決して二枚目じゃないけど愛嬌たっぷり、母性本能をくすぐるタイプ。
どこぞの誰と浮名を流しては、妻に気を遣いご機嫌を窺う日々。
これじゃまるでラブコメ、佐藤先生早くP-38に乗せてあげて。

この弛緩しきった前半で、唯一の読みどころがフランス降伏後の政争を描いた箇所。
対独融和のヴィシー派と徹底抗戦のドゥ・ゴール派がここ亡命先のアメリカでも激しい勢力争いを繰り広げている状況。
何故フランス人同士で争わなければならないのか?と嘆きつつ、サン=テグジュペリ自身もドゥ・ゴールとは馬が合わず、フランスの植民地である北アフリカの現地軍に望みを託す始末。
強大なナチスを倒すには全フランス国民が一丸となって、工業大国アメリカを参戦させなければならないのにどうしてそれが解らないのか。
憤懣やるかたないサン=テグジュペリですが、一番辛いのはドイツ占領下に取り残されたフランス国民ですよと、あんたニューヨークの高級ホテル暮らしで悠々自適やないかと。
そーゆーとこがねえぇお坊ちゃんなんですよ、憎めないんですけど。

話が進まずモヤモヤMAXの読者&サンテックス、、、そんな中あの大事件が勃発します。
そう、日本海軍による真珠湾攻撃です。
これによりアメリカの参戦が決定、徹底抗戦派のフランス人たちは大喜び。
正直日本人としては複雑な心持ちですけど、まあそーなるわな。

で、もう一山二山越えーの、何やかんやありーので、やっとこお持ちかねのP-38です。
遅ぇえわッ!!
でもね、こっからがメチャメチャ読ませます。
『星の王子さま』の執筆シーンとP-38の空中戦のシーン(偵察部隊なんで逃げるだけですけど)、どっちが今作の核かで意見が分かれると思いますが、勿論俺は断然P-38派。
フランス空軍のオンボロ旧式機とは段違い。
自慢の高速と高高度性能でドイツ機を振り切る様は、痺れるほどの格好良さ。
そもそも俺が第二次大戦モノで連合軍に感情移入するなんて、まずありえないこと。
やりますね佐藤先生。

北アフリカ戦線米軍指揮下の偵察部隊に配属されるわけですが、そこはそれ我らがサンテックス、全く空気というものを読みませんw
兎に角最新鋭機のP-38に乗せろと駄々をこねまくり、有名人特権コネ使いまくり。
英語は覚えねぇわ、出撃前日に酒は飲むわ、命令違反はするわ、凡ミスで高価な機体をブッ壊すわで軍紀もくそもあったもんじゃねぇw
新鮮。
戦争という破壊活動の中、まだ人間としての営みが残されているというか。
勿論サンテックスという人物が生成した環境下での特異な状態だということは理解出来ますが、それでもやはり新鮮。
ひたすら敵への憎悪のみが渦巻く東部戦線や太平洋の島嶼戦とは雲泥の差、飢えることもなければ寒さに震えることない。
第二次世界大戦に従軍するという極限状態は同じでありながら、そんな中でも存在する厳然たる格差。
運と割り切るには余りにもやりきれない持てる者と持たざる者。
これほどの運命の皮肉、神の気まぐれがあろうか。

とは言え、自らの命の危険を顧みず祖国を救おうとしたサン=テグジュペリの勇気が翳ることはありません。
彼が残した作品と共に永遠に語り継がれていくことでしょう。

最期に小ネタを少々。
サルバドール・ダリの友情出演にビックリ。

台詞に無理矢理カタカナを混ぜて、アメリカ人が話す拙いフランス語を表現するのは巧いなと思いました。

あと佐藤先生の溢れるフランス愛ね、日本人がサン=テグジュペリという歴史上の人物にここまで命を吹き込んだという事実。
例えば、太宰治をここまでリアルに描けるフランス人作家います?おらんでしょう。
今作はまさに佐藤先生のフランス愛の結晶。

空気が読めない俺様男、憎めない問題児にして愛すべきトラブルメーカー
何をやらかしても結局は許されてしまう、一番苦手で一番羨ましいタイプ。
何でこんなに気になるんだろう?
、、、親父じゃね?
嗚呼、サンテックスから知性と教養と品格取っ払ったら、ま・さ・に、ウチの親父だわ。


キャラ小説
★★★☆☆
0 1

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2022年07月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      

最近の日記

もっと見る