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2022年03月31日21:50

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たたなづく青垣

熊野の山々を、どう表現すればよいのだろう。
歩いていた行程の8割以上は、古道と森と岩きり見えない、まったくの山の中だった。
面白いことに、中辺路も赤木越も、ほとんどが尾根から一段下りたあたりに道がついていて、峠越えをするほんの僅かな間だけ本当の尾根道を歩くという感じだった。
尾根歩きをした方が見通しがきくし歩きやすくていいのでは?と思うが、これにはどうした理由があったのだろうか。

また、熊野古道といえば、「苔むしたほの暗い石畳」というイメージを持っていたのだったが、歩いてみると、驚くほどからりと乾燥した自然道で、石畳の道や階段は、神社や集落の近くだけに集中していた気がする。
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しかしですね、石畳というのは、ほんっっとに歩きにくいのですよ。
これは歩く人のためのものではなく、車の轍が沈まないためにあるのだということがよく分かった。
後白河法皇は生涯に30回以上も京都から熊野御幸をしたらしいが、自分の足で歩いたのだろうか?
それとも輿や車に乗って?
私の頭の中で、平幹二郎の、松田翔太の、そして西田敏行の映像が駆け巡るのだけれど、いずれにせよ、お供をゾロゾロと連れたやんごとない人々が、あのコースを歩いているところも、人や牛が車を引いているところも、なかなか想像するのが難しい。
ああいう狭い山道こそ、ロバを使うのが一番合理的だと思うのだが、日本にはどうしてロバが導入されなかったのだろう??

また、中辺路の路傍には、そこかしこに賽の河原のように小石が積んであった。
そこを歩いた先人たちが積み上げたものだろうが、これは古くからの祈りの風習なのか、最近の旅人が面白半分に積んだものなのだろか。

そんなことをつらつらと考えながら歩き続けた。
熊野古道は、考え事に向いている。
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発心門王子(ほっしんもんおうじ)の前の手水は凍っていた。
日陰や、風が吹きつける場所はけっこう寒い。


時々、ふっと遠くを見渡せる場所にでることがあって、そこから眺める紀伊の山々は、本当に問答無用の「山々」だった。
ここが紀國(きのくに)=木の国と名付けられた由縁だ。
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私は方向や地理がまるでダメなので、今見えているのがどの山なのかはさっぱりわからないが、それゆえに、あれが有名な果無(はてなし)山脈だろうか、あの尾根を辿れば高野山にたどり着くのだろうか、山脈の中を吉野の山伏が荒行しているのだろうか、八咫のカラスがカムヤマトイワレビコを導いたのはあの方向だったろうかと、遠くの山々の連なりを見ながら想像を巡らせる。
山々は、果てしなく、どこまでも青の濃淡であった。
そうか。
我々がむかしから「緑」を「青」と表現するのは、これゆえなのだ。

――倭は国のまほろば たたなづく青垣 山籠れる 倭しうるはし

ヤマトタケルが、死の直前に詠んだ歌だ。


山肌には、台風や水害に再三見舞われることを示すように、至るところ土砂崩れの痕があった。
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人間が山に依存して暮らすなら、畢竟建材や燃料などのために山の樹は切られる。
人の暮らしと自然の猛威の両方をうけて、山々は植林、伐採、山崩れのサイクルを繰り返し続けているのかもしれない。
宇江敏勝の『世界遺産熊野古道』(新宿書房)によると、熊野地方は戦後に杉と檜の植林が盛んにおこなわれ、人工林は全国でも抜きんでて多い、のだそうだ。
炭焼きの家に生まれ、中辺路に住んで林業を生業とし、熊野に関する書物を多く出している氏が書くのだから本当だろう。
今自分が見ているのは、古代から変わらぬ山々・・とロマンチックな幻想に浸りたいところだが、現実はそうはいかないようだ。
けれど植林であろうが原生林であろうが、あの奥へ行くほど薄く翳んでゆく青い重なりは、秋津洲成って以来、大きく変わらないものなのではないかと思った。



<連載 熊野古道漫遊記>
(1)チャンス到来
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(2)パンフレットの海を泳ぐ
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(3)キャンセルまたキャンセル
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(4)バスは5時58分
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(5)藤沢発、初瀬経由、熊野へ
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(6)よみがえりの湯
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(7)熊野古道とサンチャゴ・デ・コンポステーラ
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