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2018年03月02日07:19

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肛門はえらい

 漏らしてはいけないときには漏らさないけれど、出すべき時には結構な太さのものでも通過させちゃいます。固体は出さないけれど気体は通過させる、なんて器用なこともできます。こんな大変なことを毎日やっているのに、ちっともポジティブに評価されず、たまに失敗したときだけ集中的に非難される、とは、肛門は損な立場ですねえ。

【ただいま読書中】『10分後にうんこが出ます ──排泄予知デバイス開発物語』中西敦士 著、 新潮社、2016年、1300円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4103505311/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4103505311&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=1abe14f6b00a3d27e2e05d106e12d3a7
 ビジネスの勉強でカリフォルニア大学バークレー校に留学しているとき、著者は道端でうんこを漏らしてしまう、という壮絶な体験をしてしまいました。お漏らしがいかに人間の尊厳を傷つけるかを実感すると同時に、排泄に悩む人間がこの世界には多いのにその“需要"が見過ごされている(巨大な市場がそこにある)ことも著者は知ります。ではそれを新規事業に結びつけるにはどうしたらよいか? 必要なのは「社会的意義」と「実現可能性のある技術」です。「うんこをせずにすむ体」や「漏らしても問題のないうんこの開発」など、著者は様々な可能性を探ります。そして「あと何分でうんこが出るかを把握できたら、その時間内に安心してトイレを探すことができる」という「基本コンセプト」を得ます。
 著者はアメリカで「トリプル・ダブリュー」という会社を設立します。設立費用はわずか7万円。資金はお金を持っている人に、開発は開発できる人に任せる、と会社のポリシーはシンプルです。初期費用の6万ドルは何とか調達。これでプロトタイプの製作です。著者は「ずっと身につけていられる小型なウェアラブルな装置」「超音波を使う」というアイデアで開発路線を決定。そして情報と人集めは、さすがにSNS時代の申し子。ちゃっちゃっちゃとスピーディーに、かつ軽いノリで話がぐんぐんドライブ加速をしていきます。しかし、シリコンバレーの高給取りのエンジニアを半年間も「無給のボランティア」で技術相談に扱き使うとは(もちろんそれなりの理由はあるのですが)、著者のアイデアか、あるいは著者そのものに相当の魅力があったのかもしれません。知り合いから知り合いへ、「緣」はどんどん広がり、思わぬ出会いが得られます。それでも「誘われた合コンにはできるかぎり出ておくべき」はちょっと違うと思いますが。
 さて、「最高の人脈」のバックアップによって、ついに実験が始まります。これが抱腹絶倒。「膀胱の位置がわからない? コーヒーを3リットル飲んだら膨らむんじゃない?」「直腸の位置がわからない? 何か突っ込んだら?」……そして、いつどこに何がどのくらい貯まったら「便意」を感じるのかの実験。日本の開発チームのメンバーは(万一の“惨事"に備えて)紙オムツを履いた上でずっとテスト機を身につけてデータを集め続けます。著者はアメリカで資金調達です。CEOにはCEOの仕事があるのです。そのプレゼンテーション(「私は屋外で漏らしたことがあります」の衝撃の告白から始まるもの)が「バズ」ります(「バズる」とは口コミで話題となること)。実際に困っている人(「急に来る便意に困っている人」「親の介護で苦労している人」「脊髄損傷で便意がなくて困っている人」など)が多かったのです。
 資金調達は次のラウンド(シードラウンド)に進みます。目標は5000万円。話を持っていったニッセイ・キャピタルはあっさり「5000万円出そう」。しかし条件があります。「おそらく1億円以上かかるはず。だからもう一つ5000万出す出資先を見つけたら、うちも出す」と。ところがそれが見つからないのです。見せることができるのは試作機だけなのだから、どこも財布の紐を締めます。会社継続の危機。それでもなんとか資金調達ができ、会社は生き延びました。
 次の難題は「尿検知は容易なのに、便検知は難しい」ことです。それはそうでしょう。尿は常に液体ですが、便は固体だったり液状だったりしますから。そこで著者はまず「尿検知タイプ」を先行発売することにします。同時に、実証実験として、介護施設に泊まり込み。そこで見た介護の実態は、なかなか壮絶なものでした。トイレに誘導してもほとんど空振り。しかし利用者が漏らしたら、時間とコストがかかり、本人のプライドが傷つきます。それを著者は「想定外のことが起き続けている合間を縫って通常業務をこなす」と表現します。しかし、排泄予知デバイスがうまく働いてくれたら「想定外」を「通常業務」にすることが可能になるのです。もしかしたら、おむつの使用そのものをやめることができるかもしれません。これは生活の質を上げ人間の尊厳の回復です。
 本書の最後に面白い言葉が登場します。「尿意や便意は重要ではない。客観的に『今トイレに行ったら排泄できる』ことを知らせることが大切」。「主観」は揺らぐものなので(トイレの心配をしたら尿意はさらに高まったりしますよね)、「客観」が持ち込めるものなら持ち込んだ方が生活は便利になるのです。さらに「子供のおむつ外し」。もしかしてこのデバイスは、子供のおむつ外しトレーニングにも応用できるかもしれません。また「排泄に関するビッグデータ」によって、この社会での「排泄」だけではなくて「健康」の概念に何らかの変革が生じる可能性もあります。小さなデバイスが、これから世界を変えるのかもしれません。


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