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2017年10月14日07:13

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少年ジャンプの世界は虚構だった

 昨日アップしたはずだったのがなぜか失敗していたので、今上げておきます。

 今の選挙での各党首などの主張を聞いていると「少年ジャンプの連載漫画だったらそれは主人公やそのライバルじゃなくて下衆な雑魚キャラの言動だぞ」と言いたくなる人物が次々登場します。悪口言ったり他人の足を引っ張ったり嘘をついたり見栄を張ったり。もうちょっと「漫画の主人公」らしい人たちがたくさん登場してくれませんかねえ。

【ただいま読書中】『ブラインド・サイド ──アメフトがもたらした奇蹟』マイケル・ルイス 著、 藤澤将雄 訳、 ランダムハウス講談社、2009年、1900円(税別)
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 1981年(アメフトの)ニューヨーク・ジャイアンツに加入したローレンス・テイラーは、「QBサック(オフェンシブラインの後ろで守られているチームの司令塔であるQB(クオーターバック)に直接タックル(それも強烈なの)をくらわすプレイ)」という“新しい戦術”を持ち込みました(それまでも偶発的にそのプレイは発生していましたが、意図して狙うプレイヤーは彼が初めてだったのです)。それによって「アメフト」は変貌を強いられます。NFLは82年から「QBサック」を公式記録に残すようになり、多くのチームは「テイラー対策」を立てるようになりました。QBは恐怖心と共に、常にテイラーの位置を確認するようになります。そして、QBを守るオフェンシブラインの選手で、特に(右利きの)QBのブラインドサイド(死角になり易い左側)を守るレフトタックルの“価値”が高くなりました。そしてこの傾向は、テイラーが引退した後も“遺産”として残されます。ラインの人間は基本的に平等な扱いでしたが、レフトタックルだけ高給取りになったのです。
 2004年、全米の有望なハイスクール選手を把握してプロと大学のために紹介するリストを出版しているトム・レミングは、マイケル・オアーという無名の16歳の黒人少年の情報を得ます。体格はどう見ても理想的なレフトタックル。しかし彼はアメフトに興味を示しませんでした。アメフトどころか、高校(それも本来は白人用のミッションスクール)に入ったのは何かの間違いで、スラムに放置されていた彼は初等教育も人との会話も挨拶もそれまで学んではいなかったのです。肉体と運動能力は規格外だったのですが(階段で級友がすれ違えなかったそうです)。しかしなぜか彼を支援したい人が次々現れます。ここはまるで現代のおとぎ話。そういった支援希望者の中に、ショーンとリー・アンのテューイ夫妻がいました。夫は典型的な南部白人男。妻は黒人差別主義者の家庭で育っています。しかしこの二人、なぜか“規格外の黒人少年”に肩入れを始めます。ついでですが、この二人は、著者の親友(とその妻)だそうで、だからこそ著者はこの本をなかなか書く気にならなかったそうです(親友を取材対象にしてそのプライバシーを公表することになってしまいますから)。さらについでですが、この二人は億万長者で、だからのちに「将来有望だが貧しい黒人少年」を勧誘する気で来たスカウトたちは「大金持ちの家の子供」と話をしなければならないことに気づかされることになります。
 高校の学業が最低ラインに達するまではクラブでのスポーツ活動は禁止、ということで、授業の後に個人授業を受けてその空き時間にちょこっと陸上競技を見ているだけでコツを掴み、州の大会で円盤投げでも砲丸投げでも州の記録に迫るあるいは更新する記録をマイケルは出してしまいます。高校2年でバスケットボール部と陸上部での活動を許可され、3年になってやっとアメフト部への参加も許可されます(何が一番向いているか、本人も周囲もまったくわからなかったのです)。最初は体格と運動能力からディフェンスのタックルとして起用されましたが、そのポジションに必要な攻撃性(QBサックをする意欲)をマイケルは欠いていました。また「チームの中での役割」に対する理解もマイケルは欠いていました。いままでの人生でそのようなものが必要になる場面に遭遇したことがなかったのです。
 リー・アンは、決まったねぐらがなくあちこちを転々としているマイケルを居候として家に引き取ることにします。問題は彼の体重(最大で160kg)に耐えるベッドがあるかどうか。そこで登場したのが「フトン」です。意外なところで日本に出会えました。しかし「なんでそこまで?」と私は感じます。アメリカ人は、人種差別は徹底的に行いますが、反人種差別もそれと同じ位くらい熱心におこなうようです。
 そしてついに「噂」が広まり、文字通り全米の大学からフットボールのコーチが練習の見学にやって来るようになります。どの大学もスターを求めているのです(たとえそれが“原石”であっても)。高校のコーチを補助するショーンは、最初はマイケルをバスケットボールで活躍させようと思っていました。まるでポイントガードのような巧妙なドリブルからゴール下に切れ込みダンクシュートができる運動能力を持っているからです。しかし彼の最適の“居場所”は、「ブラインドサイドを守るレフトタックル」でした。「次の偉大な大学フットボールスター」と呼ばれるようになったマイケルですが、成績がNCAAの最低基準を満たしていませんでした。そこでリー・アンは、高校4年生(アメリカでは9年生〜12年生のハイスクール4年制のところが多いそうです)になったマイケルに、取れるだけの授業を取らせ、家庭教師役も買って出ます。
 著者は「アメフトの歴史(パスゲームが重視されるようになることでQBの“価値”が増し、それにつれてQBを守る(怪我をさせない)レフトタックルの価値も上昇した過程)」について詳述し、そのレフトタックルが活躍したアメフトの試合を文字で“実況”します。映像だとライン同士の激突は地味なものにしか見えません(だからファンの多くはQBとボールの行方に注目します)が、実はQBが「ゲームをコントロール」できるのは、QBを守るシステムが機能しているからこそなのです。
 ついに大学に入学できたマイケルは、1年生から試合に出ることになります。高校とは違ってはるかに複雑なプレイの数々を全然記憶できていないのに、まるで「体で覚えろ」とコーチが言っているようですが、マイケルはそこでサバイバルをしていきます(アメフトも大変ですが、スポーツをするためには学業で一定の成績を残さなければならないのです)。
 マイケルは「自分に関する情報」を「他人に話す価値のあるもの」とみなしていませんでした。というか、あまりに悲惨で、否認をしていたのかもしれません。ただ、彼はアメフトとテューイ夫妻(をはじめとする多くの人たち)に出会うことで「人間」になりました。彼は奇跡的に優れたアメフト選手ですが、「人間」になったこと自体がきっとこの本で言う「奇蹟」なのでしょう。



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