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2017年05月26日20:00

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要するに

 「要するに」を愛用する人の話は、「要するに」の前の話がずいぶんだらだらと長いものですが、「要するに」の後の話も、だらだらと長いことが多いのが難点です。

【ただいま読書中】『都市の起源 ──古代の先進地域=西アジアを掘る』小泉龍人 著、 講談社選書メチエ620、2016年、1650円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B01D06QK04/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B01D06QK04&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=c0a6ffe47620a73ff11009e07fed08f2
 古代都市研究では、「旧約聖書」と「ギリシア神話」を基礎教養とする西洋の学者が注目したのは西アジアでした。特に「最古の都市」として候補に挙げられるのは「イラクのウルク遺跡(現代名ワルカ)」と「シリアのハブーバ・カビーラ南遺跡」です。著者は、まずウルクが「都市」として誕生し、その“コピー”としてハブーバ・カビーラ南が生まれた、と考えています。
 そもそも「都市」とは何でしょう。実はその定義はけっこう難しいのですが、著者は「都市計画」「行政機構」「祭祀施設」を必要十分条件としています。すると宿場町や港町で「都市」ではなくなってしまうものが出てきそうですが、とりあえず何か定義をつけておかないと話が始まらないので私もとりあえずはこの定義に従うことにします。
 都市の住民を食わせるためには、農作物の貯蔵が必要です。よそ者も多く集まるから、盗難防止に(施錠できる)倉庫の建設、管理、見張りの配置などが必要になり、それは容易に「権力」へと発展していきます。古代都市の中心には神殿があったとしても、その“陰”では世俗権力がすでに発生していたのです。
 都市計画で重要なのは「川の流れ」です。上流に聖域・下流に市街地を配置し、川の流れに従って給水や排水のインフラを整備する必要があります。それに逆らった都市計画の都市は、短命に終わります。河川は、灌漑用などの水資源としての利用の他に流通の手段という重要な役割がありました。余剰農産物や鉱山からの生産物を輸送するのに使われたのです。それぞれの地域の遺跡から、異なった形の船の模型が出土しています。
 都市(の余剰農産物や楽しみなど)は「よそ者」を引きつけます。遠くの情報や異文化を持ち込む人として、あるいは繁忙期の臨時の労働力などとして、都市の側にもよそ者はメリットのある存在でした。ただ数が増えると「土着の都市民」と「よそ者」の共存が社会問題となります。よそ者が参入しやすいように、また人口増に対応するために物の生産には専業や分業や大量生産の手法が取り入れられます。そして、それまでの「平等」が基本だった社会に「階層」が生じます。「みんな同じ」ではなくなったのですから。また「防犯装置(倉庫の扉の鍵など)」が生じます。ただし錠前ではなくて封土で閉じて印章を押すやり方ですが。
 下水は意外に早くできています。7000年前のウバイト期の集落では、家屋ができてからその間に溝を掘る場当たり的な物でしたが、6000年前のウルク期には石膏プラスターで厚く覆われた下水管が設置され、5500年前のシェイク・ハッサン遺跡では石敷きの街路と建物の壁沿いの排水溝が都市計画に基づいて設置されています。5300年前のウルク後期ハブーバ・カビーラ南では街全体を覆うように地下に土管が埋設されて排水網が構築されています。インダス文明のモヘンジョダロでも城塞部に計画的に作られた排水施設が残っています(上水は井戸に頼っていました)。
 ワインの生産(ビールより古いそうです)、野生ロバの家畜化、粘土板への文字の記録などにより、都市は高度・複雑化の道をたどり、古代西アジアではそれを軸として国家(都市国家)が形成されることになりました。
 国家が一つだけなら、権力は未熟です。しかし、都市国家がいくつも誕生すると競合(競争)が生じ、やがてそれは戦争に通じます。5300年くらい前から銅製の武器が大量に出土するようになっていて、このあたりから戦争が増えていることが窺えます。
 西アジアは厳しい環境です。そこでの発掘は「自然環境との闘い」だそうですが、そういった「厳しさ」が「都市化」の原動力になったのではないか、と著者は感じたそうです。対して豊かな自然の日本やエジプトではそこまでの切実さがなかったのではないか、というのが著者の感想ですが、エジプトと日本にそんな共通点があったとはねえ。

 なお、本書に出てくる「図」は基本的に平面図ばかりです。「都市」の三次元の復元図については『鳥瞰図で見る古代都市の世界 ──歴史・建築・文化』(ジャン=クロード・ゴルヴァン 著、 吉田春美 訳、 原書房、2017年、4800円(税別))https://www.amazon.co.jp/gp/product/4562053755/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4562053755&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=e6417fefe779825091528f8432e19c0dをどうぞ。「都市」が単に「住居がたくさん集まった平面」なのではなくて、その中に必ず「高さ」を示す建造物(神殿、城壁、塔など)が含まれていることが一目でわかります。


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