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2016年09月09日20:10

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「すばらしい新世界」

読書日記
「すばらしい新世界」
オルダス・ハクスリー
 作

ディストピア小説の古典。
表現としては単純な文体でマンガのような趣があり、最初はやや戸惑ったが読み進むにつれ気にならなくなった。ところどころ擬態語が混ざっていて、たとえば「どっかーん、どっかーん」とか「にこにこ、にこにこ」とか文中急に出てくるので、あれっ?と奇妙な感じがする。まさにマンガのようでやや脱力するが、これはこれでオモシロい。

オーウェル「1984年」、ザミャーチン「われら」など、暗黒の未来社会は徹底的に管理された完璧な全体主義社会だが、この作品はいっそう暗黒さがきわだっている。
胎生は否定され人間はみな人工授精によって壜の中で生まれ育ち、親子関係は卑猥なものとされる。生まれたときから5段階の階級に分けられていて、下層のものは教養や知識を嫌い単純労働に喜びを見出すように脳に条件づけされてしまう。また多胎児政策により同じ人間が労働用に大量製産されている。大人は麻薬ともいうべきダウナー系の薬剤を常用していて毎日は不平不満もなく多幸感のまま過ぎ行くのだ。
これでは大掛かりな叛乱は起きようがないし、物語は少数の異分子達によって進行するが、あんのじょう悲劇的な結末に至るのだった。

1932年の作品であるが、未来社会のディストピアぶりが実にこってりとよく考えられている。丁寧できめ細かい。特殊な設定を理屈っぽく説明するのではなく、人物の自然な会話や行動を通して暗黒社会さもありなんと納得させられる。物語を進行させる数人の異分子達は英雄ではなく心弱き平凡な人間で、彼等のダメさ加減と敗北がわかりやすいエンターテイメントのパターンを回避できている。そこがよかった。

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