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日記一覧

「マスク」
2020年12月27日20:10

読書日記「マスク」菊池寛 作(文春文庫)100年前、スペイン風の猛威に怯える作家と世の中を描いた表題作ほか、コロナ禍の現代に問う死と病の短編集。菊池寛も少しは読んでいたが、あらためて読んでみて面白さに感服した。まさに短編の名手。世間をよく見て

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「地下鉄道」
2020年12月24日19:46

読書日記「地下鉄道」コルソン・ホワイトヘッド 作(ハヤカワepi文庫)奴隷制度真っ只中の19世紀南部アメリカ。秘密の地下鉄道に乗って北部へと逃亡を続ける少女の逃走劇。解説によるともともと「地下鉄道」というのは逃亡奴隷のための救援ネットワークを示

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「ロサンゼルスへの道」
2020年12月14日20:58

読書日記「ロサンゼルスへの道」ジョン・ファンテ 作(未知谷)自身をモデルに書かれた若き作家志望の青年の独白。過剰な自意識を圧倒的な饒舌体で描く。作者死後発見されたシリーズ第1弾。安アパートに母・妹と暮らす青年バンディーニ。下町暮らしでただひ

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「髪結いの芸術家」
2020年12月10日21:00

読書日記「髪結いの芸術家」レスコフ作品集2(群像社)19世紀後半に活躍したロシアの物語作家レスコフの短編集。はっきりとストーリーがあり、その行方にハラハラする組み立て。短編らしいオチのある作品もあるが、なかなかどんでん返しやハッピーエンドに持

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「現代の英雄」
2020年12月07日20:00

読書日記「現代の英雄」レールモントフ 作(光文社古典新訳文庫)26歳で決闘死した熱血の英雄レールモントフ。カフカスを行く若き軍人ペチョーリンを主人公に短編5作で構成された著者の代表作。長いものも短いものも惜しげなくドラマがあり、クセのある人物

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読書日記「三島由紀夫 悲劇への欲動」佐藤秀明 著(岩波新書)「前意味論的欲動」をキー概念として、三島に生得的に存在する破滅的衝動を追う。平和な家庭人にたどりついた果ての自決はなぜなされたのか?私にとって日本三大気色悪い作家である谷崎・川端・

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「サンソン回想録」
2020年11月30日20:47

読書日記「サンソン回想録」オノレ・ド・バルザック 作(国書刊行会)代々死刑執行人を務めるサンソン一族の誠意と苦闘の歴史を、歴史資料をもとにバルザックならではの筆致でドラマティックに綴った一冊。サンソン家のみならず他国の死刑執行人のエピソード

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「突囲表演」
2020年11月26日21:00

読書日記「突囲表演」残雪 作(河出文庫)謎の女「X女子」をめぐる人々の常軌を逸した動向を追う長編小説。はたして彼女はそれまでの伝統的な習俗を破壊する進んだ女性なのか?「Q男子」との不倫関係はほんとうにあったのか?悪夢の中をさまよって出られない

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「寝台特急 黄色い矢」
2020年11月17日21:04

読書日記「寝台特急 黄色い矢」ヴィクトル・ペレーヴィン 作(群像社)ロシアの人気作家ペレーヴィンの90年代に書かれた短編を収録。ソビエト崩壊後の混迷するロシア社会が生んだ傑作集。以前読んだ「宇宙飛行士オモン・ラー」がたいへん面白かったので購入

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読書日記「オルノーコ・美しい浮気女」アフラ・ベイン 作(岩波文庫)17世紀。イギリス初の女性職業作家によって書かれたドキュメンタリー小説2編。謎の作家アフラ・ベイン。まさか1600年代に書かれた作品だとは。すでにイギリス文学というものは確立してい

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「白い病」
2020年11月06日21:09

読書日記「白い病」カレル・チャペック 作(岩波文庫)大戦を目前に広がるパンデミック。唯一の治療法を武器に、戦争へ突入しようとする軍人・武器商人と対決するひとりの医師。彼は貧しい者の味方だった。チャペック晩年の名作戯曲。社会に対する風刺や批判

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「聖伝」
2020年11月04日21:04

読書日記「聖伝」シュテファン・ツヴァイク 作(幻戯書房)ツヴァイクの残した旧約聖書を原典に書いた「聖伝」5編のうち3編を収録。聖人の苦闘をいきいきと描いて現代社会をも問い返す力作。「埋められた燭台」:ローマにひっそりと暮らすユダヤ人たち。侵

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「幻想小説とは何か」
2020年10月27日21:02

読書日記「幻想小説とは何か」三島由紀夫怪異小品集(平凡社ライブラリー)東雅夫編集の文豪怪異小品シリーズ。評論・手紙をメインに掌編小説まで。三島にとっての幻想文学を追ってゆく。巻末の論考「小説とは何か」を中心に、百間・牧野信一・足穂の解説など

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「朝露の主たち」
2020年10月19日21:09

読書日記「朝露の主たち」ジャック・ルーマン 作(作品社)カリブ海の新興国ハイチ。迷信と対立に染まった旧村。水飢饉の危機を合理的知見と和解・協力によって打開すべく奮闘する青年の物語。ハイチ文学の父と呼ばれるジャック・ルーマンが、わずか37歳で他

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「侍女の物語」
2020年10月12日20:48

読書日記「侍女の物語」マーガレット・アトウッド 作(ハヤカワepi文庫)キリスト教原理主義者に乗っ取られたアメリカ。女性は全ての人格を奪われ、主人公は子孫を残すための機械としてある屋敷に配属される。果たして逃亡は可能なのか?恐怖のディストピア

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読書日記「有島武郎」ー地人論の最果てへ荒木優太 著(岩波新書)小説・評論及び論争をたどりながら、有島の揺れ動く社会観・人間観を跡付けていく好著。有島武郎は「カインの末裔」を読み返し、その他小品をすこしばかり読んだだけだが非常に好印象で、自分

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「鉄の時代」
2020年10月05日20:55

読書日記「鉄の時代」 J・M・クッツェー 作(河出文庫) 以前読んでいたことに気づかず再読。過去日記がよく書けていたのでそのまま再掲する。(mixi過去日記)2012.08.16アパルトヘイト廃止直前、騒乱の南アフリカ。癌を抱えて死を目の前にしなが

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「水晶内制度」
2020年09月30日21:00

読書日記「水晶内制度」笙野頼子 作(エトセトラブックス)日本国内に独立する女だけの国「ウラミズモ」。原発と少女データを経済力として、したたかに生き延びるこの国で、新たに神話を書き起こす作家である私が見たものは?驚異のディストピア小説。第1章

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読書日記「忘却についての一般論」ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ 作(白水社 EXLIBRIS)1970年代アンゴラ独立闘争のさなか、密かにマンション内に身を隠し約30年を生き抜いた女性。内戦下で揺れ動く様々な人々の運命がしだいに彼女の運命と繋がってゆ

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読書日記「サブリミナル・インパクト」下條信輔 著(ちくま新書)ふだん自覚できない無意識の情動的な認知。潜在する心の働きが我々の意識に先んじて働く様子を消費や政治、創造性など様々な視点で分析する。やはり意識して考えていることより、快・不快の感

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「路地の子」
2020年09月17日21:11

読書日記「路地の子」上原善広 著(新潮文庫)大阪府松原市。昭和まっただ中。被差別地域である路地から、包丁捌きの腕と才覚で食肉業界をのし上がった男のルポルタージュ。私も大阪出身だが遠く離れた北河内なので、物語の舞台である松原市が屠畜業盛んな土

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颱風(タイフーン)
2020年09月14日21:28

読書日記颱風(タイフーン)レンジェル・メニヘールト 作(幻戯書房)20世紀初頭、パリに集う日本人たちとある事件をめぐるいかにも日本人的な対応。黄禍論高まる中で書かれたハンガリー作家による大ヒット戯曲。国民が利己主義を捨て、国家のために犠牲とな

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読書日記「会いに行って」靜流藤娘紀行笙野頼子 作(講談社)笙野頼子が心中、師と仰ぐ藤枝静男を語る熱き思い。私小説の極北である「田紳有楽」を中心に、これがなぜ私小説なのかしだいに明らかになっていく。この論考自体が私小説。藤枝静男は私にとっては

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読書日記「カフェ・シェヘラザード」アーノルド・ゼイブル 作(共和国)ポーランドからナチの手を逃れ、ソビエトからも脱出したユダヤ人たち。メルボルンのユダヤ人街でカフェに集う古老達の凄絶な体験記。ホロコーストを逃れたユダヤ人達がまさかオーストラ

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読書日記「砂漠が街に入りこんだ日」グカ・ハン 作(リトルモア)韓国出身の若き才能が母語を離れフランス語で書いた様々な人生の営み。日常と非日常の間を行き来する短編集。オビ文にあるような「鮮烈、絶賛、大事件」とまでは思わないが、文章の瑞々しさの

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「工場」
2020年08月27日20:44

読書日記「工場」小山田浩子 作(新潮文庫)ひとつの街に匹敵する巨大工場。与えれた仕事はシュレッダー、文字校正、コケ観察など…どこか納得できないまま繰り返される不思議な日常。大きなくくりでカフカ的と言ってしまえばそれでもいいんだけど、この微妙

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「鷗外先生」
2020年08月22日21:18

読書日記「鷗外先生」永井荷風 著(中公文庫)師と仰ぐ森鴎外の歴史小説と死語の顕彰について。愛した向島・玉の井ほか浅草などの街の変遷。若いころの文壇デビューや上田敏との交流を描く「書かでもの記」など荷風随筆集。娘の森茉莉が初めからしっか

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読書日記「旅に出る時ほほえみを」ナターリヤ・ソコローワ 作(白水Uブックス)体内に人工血液が流れる金属怪獣その名も「17P」。開発者を乗せて地底深く突き進み地下世界の組成・構造を明らかにする。しかし国家は文化・芸術を支配する俗悪なる独裁体制へと

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読書日記「トートロジー考」内島すみれ漫画評論集内島すみれ 著(北冬書房)つげ義春・つげ忠男・菅野修・うらたじゅん等、「ガロ」「夜行」の作家を論じた本格的な漫画評論集。おそらく漫画評論史に残る記念碑的一冊。ここで取り上げられた作家・作品のほと

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「フラッシュ」或る伝記
2020年08月11日21:00

読書「フラッシュ」或る伝記ヴァージニア・ウルフ 作(白水Uブックス)詩人エリザベス・バレットの波乱の人生を共に生きた愛犬、コッカー・スパニエルの「フラッシュ」。彼の眼を通して語られる犬と彼女の心通う物語。詩に疎い私はエリザベス・バレット・ブ

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