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2016年08月31日07:14

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38度

 体温が38度だと、病気です。気温が38度になると、死ぬほど辛い暑さです(実際に熱中症で死ぬ人もいます)。だけどお湯の温度が38度だと、ぬるま湯でお風呂だったら湯冷めします。「同じ温度」なのにねえ。

【ただいま読書中】『ドクター アロースミス』シンクレア・ルイス 著、 内野儀 訳、 小学館、1997年、1600円(税別)
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 20世紀になったばかり、アメリカがまだ清教徒的な雰囲気で染まっていた時代、マーティン・アロースミスという青年が医学生になりました。彼の望みは細菌学で名を挙げること。ちょうど野口英世がアメリカで活動を始めた頃です。「最新の医学」は細菌の研究とほぼ同義だったのでしょう。
 マーティンの大学生活は、喜びと苛立ちとむなしさに満ちていました。自分がやりたいことと自分がするべきことと自分ができることとが一致しません。寮生活での仲間たちも、喜びでもあり苛立ちでもあります。マーティンは優れた科学者・優れた医学者になることを理想としていますが、同級生たちはとにかく試験に通ることや早く医者になって金を儲けることを理想としていたのです。
 医学部2年でマーティンはやっと細菌学教室に入ることを許されます。細菌学教授のゴットリーブは偏屈親父でしたが、マーティンに科学の基本をたたき込みます。ゴットリーブの信奉者のくせに残念ながらマーティンにはその教えの本当の価値はわかってはいないようですが。
 マーティンは頭が固く融通が利きません。その分、自分が信じる道は真っ直ぐに進めます。恋愛でも無茶をします。すでに婚約者がいるのに新しい恋人と出会ってしまうと、なんとこの二人を出会わせてそこで何が起きるのかを見ようとします。いくら風刺小説だと言っても、これはひどい態度だと思うんですけどね。ともあれ、一瞬で恋愛問題にはけりがつき、マーティンはまた自分の人生を突き進み始めます。ところが、教師や学部長と衝突、もののはずみで停学処分。マーティンは放浪生活を始めます。結婚、復学、臨床医として身を立てることを決意。マーティンは自分の人生で始めて、迷いながら一歩一歩歩きます。
 医者は金儲けの手段ではなくて人類に貢献する職業だ、とマーティンは信じています。ところが「人類に貢献する」と言っても、臨床の現場で患者を救うのも貢献なら、研究室にこもって新発見をするのも人類に対する貢献です。インターンとして忙しく病院で働きながら、マーティンは迷い続けます。
 ゴットリーブは隠れた天才でした。研究に没頭して論文はほとんど発表せず発表しても無視されていましたが、彼こそが免疫学を飛躍的に進歩させるべき人でした。しかしゴットリーブも迷います。もし流行病を完全に押さえ込んだら、数世代後に人類の免疫力はひどく低下してしまい、そこに新しい疫病が現れたら人類は絶滅してしまうのではないだろうか、と。過激な考え方ですが、一理あります。しかし、高邁な思想を持つ人間は、現実社会では成功者(アメリカンドリーム=権力者や金持ち)にはなれません。ゴットリーブはとうとう大学を追われてしまいます。
 マーティンは田舎医者になります。それなりに充実した人生。しかし、田舎特有の人間関係は、暖かいと同時に、煩わしいものでもありました。さらに田舎医者は、牧師や議員や町の有力者たちとも上手くやっていく必要があります。(この辺の描写の上手さは、さすがノーベル文学賞受賞者、と簡単に言いたくなります。本当は話は逆で、これだけ描写が上手いから賞も穫れたのですが(もっとも本書では、著者はピュリッツァー賞を辞退しています))
 さらにマーティンは、牛の疫病を防ぐワクチンを作ったことが、獣医師たちの権限を侵した、とされ、ほとほとやる気をなくしてしまいます。そこでマーティンの内部に潜んでいた「ゴットリーブ」が蘇ります。志願して郡の公衆衛生を担当し、流行していたチフスの原因を突き止めます(これでマーティンは、たくさんの敵と少数の味方を得ました)。天然痘、ジフテリア……マーティンは「敵」に足を引っ張られ続けます(ここで著者は「大衆」を非常に皮肉を込めて描写しています)。マーティンはついに田舎医者をやめ、公衆衛生局に就職することにします。このとき一番有効だったのが、大学時代に喧嘩別れしたゴットリーブからの推薦状でした。
 著者は町医者の子だったそうです。だとすると、本書の“リアルさ”は、著者が実際に経験したことによるものかもしれません。ただ、100年前の物語ではありますが、本書は今でもまだ読み応えがあります。特に田舎町の人びとの姿は、現在の日本でもネット上あるいはリアル社会でそのまま見ることができるように私には感じられます。さらに「医者の理想像」とはどのようなものか、結論が出ていないことも、非常に示唆的です。


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