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2016年08月27日07:04

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親孝行

 カッコウが親孝行をしようと思ったら、誰にすれば良いんでしょうねえ。というか、自然界で親孝行は「自然な行為」でしたっけ?

【ただいま読書中】『カッコウの托卵 ──進化論的だましのテクニック』ニック・デイヴィス 著、 中村浩志・永山淳子 訳、 地人書館、2016年、2800円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4805208996/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4805208996&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 「春を告げる鳥」カッコウが、自分で子育てをせずに他の鳥の巣に自分の卵を産み付けることは、2300年以上前にアリストテレスがすでに記録に残しているそうです。
 鳥卵のアマチュアの研究家エドガー・チャンスはカッコウ(とカッコウがイングランドのバウンドグリーン入会地で托卵をするタヒバリ)の習性を観察し続け、1921年にカッコウが托卵する瞬間を映画フィルムに収めることに成功しました。カッコウの雌は、卵が産みつけられたばかりのタヒバリの巣に自分の卵を一つ産みタヒバリの卵を咥えて飛び去ります(その卵は、証拠隠滅のためでしょう、カッコウは飲み込んでしまいます)。カッコウの雛はタヒバリより1日くらい早く生まれ、目も開かない内から背中のくぼみを使って他の卵(時には孵ったばかりのタヒバリの雛)を巣の外に放り出してしまいます。タヒバリの親は一羽だけ残った「自分の仔」にせっせとエサを運び続けます。その仔が自分とはちがう模様でどんどん成長して自分よりもはるかに大きくなっても、せっせせっせとエサの昆虫を運び続けるのです。
 ウィッケン・フェンの湿地でカッコウが托卵するのは、ヨーロッパヨシキリです。著者は湿原に印をつけてすべての巣の位置を地図に記載し、すべてのヨーロッパヨシキリに色足輪をつけて個体識別ができるようにしてから観察を始めます。そして、カッコウの雌もまたヨーロッパヨシキリの行動をじっと観察していました。
 ヨーロッパヨシキリの雄も観察をしています。はじめはカップルとなった雌のところに他の雄が近づかないように。そして産卵が始まると、こんどはカッコウを警戒します。しかしその警戒をかいくぐってカッコウは巧妙に托卵をします。著者が調査した湿地では、ヨーロッパヨシキリの巣全体の16%にカッコウの卵がありました。しかしヨーロッパヨシキリも頑張ります。1/5のカップルは、カッコウの卵を巣の外に蹴り出していたのです。たとえ見た目がそっくりでも、やはり「違う卵である」ことは認識できることがあるようです。「認識できる」ヨーロッパヨシキリと「認識できない」ヨシキリとの違いは?
 カッコウとヨーロッパヨシキリの戦略はどのようなものか? それを解明するために著者は「自分がカッコウになる」ことにします。カッコウの卵と色や模様がそっくりの(あるいは似ていない)疑似卵を作り、それをタイミングを変えてヨーロッパヨシキリの巣に忍ばせることで,宿主の反応の違いを見よう、という研究です。すると「ヨーロッパヨシキリの卵に似ているほど、巣からは排斥されない(托卵が成功する)」ことがわかりました。なんだか当然の結果のようですが、進化論から見たらこれは驚くべき話です。カッコウはどうやって自分の卵が宿主の卵と似せるように進化したのでしょう?(ちなみに、「見た目が似ている」事に関して、著者は一般の鳥が“見”ている紫外線も含めての波長で実験をしています)
 カッコウの産卵時間は,早ければ数秒、平均10秒程度です。これは、一般の鳥類が20分〜1時間かけるのと違って驚くべき速さです。こっそり巣に忍び込んで素早く産卵、という戦略なのでしょう。ところがヨーロッパヨシキリやオオヨシキリは、自分の巣にカッコウを発見すると攻撃し、その後巣にカッコウの卵を発見するとふだんより高率にその卵を排斥することが著者らの研究でわかりました。つまりカッコウの産卵が素早いのは自分が発見されないで托卵を成功させるために不可欠の条件なのです。
 宿主の側は「自分の卵以外は排除する」という防御を発展させ、それに対抗してカッコウは「相手の卵と自分の卵を似せる」という戦略を発展させました。ではこういった「軍拡競争」がなかったら? カッコウに托卵されるヨーロッパカヤクグリは「自分の卵と明らかに違う卵が混じっても排除しない」種です。すると、カッコウは「似せる努力」を放棄し、明らかに大きさも色も違う卵を堂々とヨーロッパカヤクグリの巣に産み付けます。すると宿主は平然とその卵を温めるのです。著者は「ヨーロッパカヤクグリとカッコウの“軍拡競争”は、まだ始まったばかりではないか(これからヨーロッパカヤクグリが自分のもの以外の卵を排斥するようになり、それに対してカッコウが卵を宿主の者に似せるようになる)」と考えています。それが進化の過程としては自然ですから。
 カッコウの雛が巣の中の他の卵や雛を巣の外に捨ててしまうことを最初に論文で報告したのは、ジェンナー(ワクチンで有名な人)とされています。ただし、“先人”は「カッコウの雛がそれまで生をともにしたものを巣から放り出す」と書いたアリストテレスなんですが(著者はよくこれを見つけたものだと感心します)。羽も生えず目も見えない雛がそんな行動をするとは信じられない、と思う人が多く、ジェンナーの論文は最初掲載を拒絶され、100年経っても「ジェンナーの主張はばかげている」と言う人が多くいました。しかしカッコウの雛は、さらに別の戦略(たとえば、複数の雛が巣で口を開けて待っているように見せかける)も使って宿主にエサをせっせと運ばせています。いやもう「信じられない」と私も言いたくなります。
 本書は「カッコウの物語」であると同時に「カッコウに托卵をされる宿主たちの物語」であり、さらに「カッコウを研究した人びとの物語」でもあります。著者も夢中になって研究をしていますから「著者の物語」でもありますが、本書を読むと「カッコウの魅力」がよくわかります。「親としての養育義務」を放棄しているわけですから「美しい人生」と言って良いかどうかはわかりませんが、進化論の見地からは本当に興味深くて魅力的な生物です。ダーウィンが言った「もつれ合った土手」には、おそらく「いてはならない生物」はいないはず。だったらカッコウにも「地球に必要な理由」があるはずです。
 ところが英国ではカッコウが数を減らしているそうです。そこには地球環境の変化が影響を与えているらしいのですが、さて、春を告げるあの鳴き声は、いつまで聞くことができるのでしょうか?


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