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2016年08月19日07:46

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メダル確定

 オリンピックのトーナメントで準決勝に勝利すると「メダル確定」と報じられます。もちろん準決勝に負けて3位決定戦にも負けたら銅メダルも逃すことになるけれど、決勝に進めば金か銀メダルは確定している、という点で“正しい”表現ではあるのですが、私はここに「負けてもメダル」という守りの姿勢というか消極的な態度があるのが気になります。選手たちは「負けるため」ではなくて「勝つ」ために試合に臨むわけですから、そういった人に「負けてもメダルさえ取ってくれれば、ぼくちゃんは良いもんね」と公言する(選手の行動ではなくてメダルの数にだけ注目する)のは“応援”として“正しい態度”なのでしょうか? 野球中継で「ここでホームランが出たら逆転です」と平気で言える人は、三位決定戦だったら「これで勝てば銅メダル」決勝だったら「これで勝てば金メダル」と言えば良いのでは?

【ただいま読書中】『失われた甲子園 ──記憶をなくしたエースと1989年の球児たち』赤坂英一 著、 講談社、2016年、1700円(税別)
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 1989年4月5日、甲子園「選抜」の決勝戦は、のちに「もっとも悲劇的な決勝」と言われるようになりました。そこで逆転サヨナラを食らった上宮のピッチャー宮田はドラフト外でダイエーに入団、しかし芽が出ず、打撃投手に転身します。そして99年春分の日(ダイエーと阪神のオープン戦で、外野手の新庄が先発投手として起用された日)、練習で打者が打ったライナーが宮田の後頭部を直撃、外傷性くも膜下出血で緊急入院となります。後遺症は深刻でした。右片麻痺、視野障害、そして記憶障害。宮田は家族や同僚の多くを忘れてしまったのです。
 話は上宮高校時代に戻ります。宮田は大阪のボーイズリーグで注目され、上宮高校から熱心に誘われてセレクションを受けます。その時の遊撃手(宮田の1年先輩)は元木大介、三塁手は種田仁。宮田の2年後輩には黒田博樹がいます。のちのプロ野球選手(それも一流どころ)がごろごろいます。もともと進学校だったのを山上監督がスポーツ推薦枠を勝ち取って野球強豪校にしたというのですが、監督はすごい努力をしたのでしょうね。
 ただ、その「努力」の中に、暴力もありました。クラブでの暴力と聞くと「監督に厳しく鍛えられた」と肯定的に捉える人もいるでしょうが、ここでの問題は、暴力が連鎖していることです。野球部内では先輩から後輩への暴力も蔓延していました。「部員同士の暴力」も「鍛える」ことになるのでしょうか? 野球ではなくて別のものが“鍛えられる”ことになりそうなのですが。しかし、東邦で監督が選手の顔を殴って顎の骨折をさせ、それで口が開かなくなった選手にさらに「地面に散らばったボールを口でくわえて籠に戻せ」と命令するとは、何を鍛えているんでしょう? そもそも殴るにしても骨折させない程度に上手く殴らないと駄目なのでは? 著者は当時の各校の球児たちに広範にインタビューをしていますが、暴力に関しては、監督も球児もそして著者も暴力に過剰適応をしている(殴ることと殴られることをそれぞれ正当化することに夢中になっている)ように私には感じられます(で、私のこの意見が気に入らなかったら、私を“成長”させるために私を殴りに来るんですか? それとも「殴り返さないことが保証されている人間」だけをセレクトして殴っている?)。
 脳の外傷で、劇的な決勝戦の記憶を宮田は失ってしまいました。ただ、本書のインタビューを読むと、他の選手たちも、いろんなことを忘れてしまっています。著者は丹念にそれらの欠落部分を補っていくのですが、どうしてあれだけのすごい体験を人は忘れていくのでしょう?
 そしてある日宮田は思い出します。ツーアウトランナー無し、あと一つアウトを取れば優勝、という時点で、マウンド上ですでに優勝の感涙にむせんでしまい、涙でミットが見えなくなりストライクが取れなくなってしまった自分の姿を。この時上宮の選手もベンチも「ここまで来たらエースで優勝だ」と思い込んでいました。ただ、1人だけ冷静に「勝つためにはピッチャーを代えるべきだ」と判断し監督に進言していた人もいましたが、その判断は監督に握りつぶされました。かくして上宮は優勝を逃してしまったわけです。
 驚くのは、それだけの怪我をした宮田がまた打撃投手に復帰したことです。もっとも一球投げるごとに安全ネットの後ろにすぐに身を隠すようになったそうですが。それどころか、どこかで鋭い音がしても目の前をひょいと虫が飛んでも、びくりとするような生活をしているのです(完全にPTSDです)。それでも野球に戻るのは、なぜなんでしょう? これは野球の魅力なのか、それとも、魔力ですか?


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