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2016年08月11日08:33

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昼間の星

 とても深い穴の底だったら太陽光が邪魔をしないので、昼間でも星を見ることができる、と聞いたことがあります。理論的にはあり得る話ですが、試したことがないのでそれが本当かどうかはわかりません。太っ腹の施主がおられたら、超高層ビルを建設するとき、その中心に縦に空洞を作ってそこに外光が入らないようにしてもらえないでしょうか。つまり、「深い穴」をビルの中心に作ってしまうわけ。それで1階の床に立って空を眺めたら、さて、星は見えるでしょうか?

【ただいま読書中】『地底から宇宙をさぐる ──ニュートリノ質量が発見されるまで』戸塚洋二・梶田隆章 著、 岩波書店、2016年、1800円(税別)
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 宇宙線の研究により素粒子物理学が発展しました。ただし宇宙線はエネルギーは大きいけれど「自然現象」なので人為的なコントロールが困難です。そこで物理学者は、宇宙線に匹敵するエネルギーまで実験室で加速した素粒子を衝突させることで新しい粒子の研究を行い、加速器はどんどん大掛かりになって新発見が相次ぎました。しかし著者は「自然観察」に戻っての研究を選択しました。一番大きな理由は「科学予算(の日本の貧しさ)」ではないか、とも私には思えますが、まだ宇宙線研究で“すべて”がやり尽くされたわけではない、が著者の主張です。
 ここでやっと「ニュートリノ」の話が始まりますが、そのためには「ベータ崩壊」の説明が必要になりますが、ここでキュリー夫妻の名前も登場するところに「歴史」を私は感じます。で、「電子数」などけっこうややこしい話があるのですが、ともかく「ベータ崩壊とは、中性子が壊れて陽子と電子と反ニュートリノを生み出す反応である」と定義されてしまいます。で、反ニュートリノについて語るためにはまずニュートリノの実在を証明する必要があります。1951年にライネスが注目したのはなんと「核爆発」でした。ここでは反ニュートリノが大量に発生するのです。本気でロスアラモスの実験場の爆心直下に装置を設置しようとしたところで、原子力発電所でも観測ができることがわかり、53年にワシントン州ハンフォードの原発で炉心から2mのところに装置を設置して試験的な観測を始めました。54年には本格的な装置を作製、56年に反ニュートリノの観測に成功したことを報告しています。この装置は重さが10トン。カミオカンデの御先祖様です。ちなみに、カミオカンデの10倍規模のスーパーカミオカンデは5万トンです。
 太陽の内部では核融合反応が起きている、と言われています。しかし、実際には石炭が燃えているのかもしれません。本当に核反応が起きていることを確認する手段が「太陽ニュートリノの観測」です。核融合で発生するにふさわしいだけの質と量のニュートリノが検出できたら「太陽の内部で核融合が起きている」と自信を持って主張できます(これを最初に思いついたのは、ルイ・アルヴァレス(巨大隕石衝突による恐竜絶滅を唱えた父子の、父親の方)のようです)。デイビスは塩素を使った太陽ニュートリノ観測装置を製作しましたが、宇宙線のミューオンが観測の邪魔をします。そこで装置の上に巨大な遮蔽物を置きました、というか、観測装置を地中深くに設置したのです。これまた「カミオカンデの御先祖様」です。
 カミオカンデの製造にはすごい手間がかかっていることは知っていましたが、具体的に書かれた本書で改めてその大変さをよく知ることができました。実際に現場にいた人の記録ですから,迫力があります。で、太陽ニュートリノの観測を始めて全然記録が得られないときに、超新星の爆発のニュースが。地球の反対側の観測所から「見えたか?」というファックスが飛び込んできます。超新星で発生するニュートリノは、地球なんか簡単に貫通するから、カミオカンデでもそれが「見え」るはずなのです。データ解析をしたところ、まさにその瞬間にニュートリノの痕跡が捉えられていました。
 なんというタイミングの良さ、と私は思います。ただ、「ラッキー」は、しっかり準備をした人の所に訪れるものなんでしょうね。そしてその翌年1988年には太陽ニュートリノの観測にも成功。ところが、理論と実際の観測結果に重大なずれが。理論が間違っているのか、観測に問題があるのか、それとも……
 様々なシミュレーションをした結果、太陽の高密度な部分を通過するときにニュートリノの速度が影響を受けたら、理論と観測結果が同時に成り立つことがわかりました。ただそのためには、ニュートリノに「質量」がなければなりません。これは「ニュートリノの質量はゼロである」というこれまでの一般的な仮定に反します。さらにそれは宇宙論の根本にも影響を与えてしまいます。これはもっときちんと確認をする必要があります。ということで、スーパーカミオカンデが必要になってしまったのでした。
 「地底」から「宇宙」と「原子の内部」の両方を覗く研究とは、本当に面白そうです。私が現在高校生をやっているのなら、将来の道の選択肢に加えたくなります。


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