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2015年01月14日06:24

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敵国に優秀なエースパイロットが存在しない理由

 戦前に日本では「欧米人は目の色素が薄いから、高空のまぶしい光に目が耐えられない。だから優秀なパイロットはいない」と信じられていたそうです。逆に欧米のほうでは「ジャップは目が細いから視野が狭い。だから優秀なパイロットはいない」と言われていた、とか。
 「医学」とか「生理学」ではなくて「信念」とか「思い込み」とかの世界の話のようですね。でもそれで戦争が動いていくのだったら、笑っている場合ではないように感じられます。

【ただいま読書中】『ゼロ戦の秘密』クリエイティブ・スイート 編著、 PHP文庫、2009年、648円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4569671845/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=767&creative=3999&creativeASIN=4569671845&link_code=as3&tag=m0kada-22
 漢口から重慶までは往復1480km、成都までは往復1852km。日本の爆撃機隊は護衛なしでは辛い思いをしていました。そこに投入されたのが開発されたばかりの12試艦上戦闘機(通称ゼロ戦)でした。高速で旋回性能に優れ、さらに長い航続距離……世界最高の戦闘機です。しかしその“成果”をアメリカは信じませんでした。性能の低い日本製の飛行機に、もっと技量の低い中国人パイロットが騒いでいるだけ、と思っていたようです。その事情が変わったのは真珠湾。そしてその「印象」が「確信」に変わったのは、翌年丸ごとのゼロ戦を捕獲してその運動性能を確認してからだったそうです。しかしそこで出された命令が「現時点では米軍機はゼロ戦に一対一では勝てないから、単独での格闘戦を挑むな」というきわめて現実的なものだったのには、私は感銘を受けます。米軍のエースパイロットのプライドはズタズタでしょうけれどね。しかし米軍は、次々にゼロ戦を上回る性能の戦闘機を投入します。さらに、日本軍の暗号を解読、レーダーの投入……手は緩めません。
 QC(品質管理)では「PDCA」のサイクルが重視されます。日本軍は「新兵器」としてゼロ戦を開発/投入して大戦果を上げました。これは「P(Plan)」と「D(Do)」の成功です。問題は「C(Check検証)」と「A(Act改善)」。日本文化でここが伝統的に弱点なんですよね。成功していると見直しをなかなかしないのです。対して米軍は、ゼロ戦によって強引に「C」を強制されてしまいました。「これまでのやり方は通用しない」と思い知らされたわけですから。そこで「改善」を行い新しい「サイクル」に突入。その結果がたとえば「マリアナの七面鳥撃ち」(あまりに簡単にゼロ戦を撃墜できたことからの揶揄)です。
 もちろんゼロ戦も改良は行われていました。しかし最初のものがあまりにバランスが良かったため、何かをよくすると何かが悪くなる、ということで、エンジン出力は500馬力が1000馬力になったとか防弾ガラスが採用されたとかはありますが、結局大きなイノベーションはなかったといわざるを得ません。
 広島県呉市のヤマトミュージアムには、ヤマトの巨大模型やゼロ戦の実機が展示されています。ゼロ戦で驚いたのは、主翼の一部が布張りだったことでした。まあ、強度が必要ないところは、別に金属ではなくて布でも竹でもかまわないわけですが、やはり当時最先端の戦闘機が紙飛行機ならぬ一部布飛行機だったというのは、その思いっきりの良さには驚きます。「徹底」というのはそこまでやることなんですね。ただ、そういった細かい工夫の凝縮は、大量生産には向きません。本書でも、米軍機は大量生産の工業製品だがゼロ戦は手作りの工芸品だった、という表現があります。こうしてみると、「思い切る」とか「割り切る」が本当に必要だったのは、設計者とか生産者の方にではなくて、戦争を始めると決めた人間のほうにではなかったか、とも思えてきます。


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