93番以上の超ウラン元素は、自然界にはほぼ存在しない。
しかし原子番号が92より小さくても、天然にほとんど存在しない元素がある。原子番号85のアスタチン(At)だ。この元素が特性を活かして、放射線療法に利用されるようになった。先日も、新聞紙面で今年中にアスタチン製造装置が大阪大医学部に納入されるという記事を見た(写真)。
◎自然界にあってもほんの数グラムのアスタチン
アスタチンは、30余りある同位体がすべての放射性である。安定同位体は存在しない。アスタチンの名もギリシャ語の「不安定」(astatos)から名付けらた。
このため原子番号85と非超ウラン元素なのに、1940年まで発見されなかった。
なぜならアスタチンは、自然界にほとんど存在しないからだ。ウランなどの放射性核種の自然崩壊の過程でわずかに生成されるが、その量も全地球中で合わせても数グラム程度とされる。無いも同然と言える。
◎半減期、長い同位体でもたった8.1時間
周期律表が出来て以来、あるべき場所の元素が次々と埋められていったのだが、85番が長くブランクだったのは、不安定な放射性同位体ばかりだったからだ。30余りと多数ある放射性同位体で最も長い半減期の同位体であるアスタチン210でも、その半減期はたった8.1時間だ。
それだけ85番発見は困難を極め、初めて生成されたのは、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校でビスマス209にサイクロトロンで加速したアルファ粒子(ヘリウム原子核)を衝突させることで、やっと1940年に生成に成功したのだ(写真)。
◎アスタチン211は標的アルファ線治療に利用
アスタチンが不安定なのは、軌道電子捕獲やアルファ線(ヘリウム原子核)崩壊で、どんどん他の元素に変わっていくからだ。
30余りの多数の放射性同位体のうち半減期7.2時間のアスタチン211は、強力なアルファ線を出すことから標的アルファ線治療などの次世代のがん治療分野での研究が進められている。
アルファ線はあらゆる放射線の中で最も強力な放射線だが、また透過力が最も小さい。紙1枚でもアルファ線を遮蔽できる。
◎アルファ線を最悪の殺人兵器にしたリトビネンコ氏暗殺事件
このアルファ線を政治的暗殺に使ったのが、2006年11月に実行された元KGB職員のアレクサンドル・リトビネンコ氏の暗殺だった(24年5月9日付日記:「テロで大統領にのぼりつめ、テロで反対派を暗殺した血で塗られたプーチンの素顔」
https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202405090000/を参照)。
プーチンの命を受け、KGBのアンドレイ・ルゴボイらが実行したもので、リトビネンコ氏は強力なアルファ線を出すポロニウム210を盛られた(写真)。ポロニウム210の半減期は約138日で、ロシアのサイクロトロンで生成したポロニウム210をロンドンに持ち込んでも、暗殺実行に十分な時間的余裕があった。前記のようにアルファ線は紙1枚でも遮蔽できるから、下手人どもはポケットにいれるなどで簡単に持ち歩きできた。
◎蓄積できないが、医療施設内設置の小型サイクロトロンで生成可能
話をアスタチンに戻す。アスタチンは前記のように半減期が非常に短いし、アルファ線の透過力はごく小さいから、体内に注射しても通過する血管をほとんど痛めず、届けられた癌組織を強力に焼き尽くす。
アスタチンはヨウ素(I)に似た化学的性質を持つので、甲状腺などに集まりやすい。さらに特定のたんぱく質や化合物と結合させることで、癌細胞だけを強力に攻撃する薬となる。
半減期が短すぎるのでアスタチン210を蓄積しておくことはできないが、うまい具合に小型サイクロトロンで生成できる。大学などに施設を常備すれば、必要に応じて製造できる。冒頭のニュースは、その施設だ。
前記の大阪大学医学部など一部の医療機関で、がんの狙い撃ち治療(標的アルファ線治療)が治験が進む。
放射線の医療分野への応用が次々と進んでいるのだ。単純な核アレルギーの愚かで不毛なことが分かってくる。
注 容量制限をオーバーしているため、読者の皆様方にまことに申し訳ありませんが、本日記に写真を掲載できません。
写真をご覧になりたい方は、お手数ですが、
https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202609140000/をクリックし、楽天ブログに飛んでいただければ、写真を見ることができます。
昨年の今日の日記:「アメリカの「化石の森」のボーンベッドで約2億年前の最古の翼竜化石発見」
https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202509140000/
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