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2020年08月05日21:17

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「アカシアは花咲く」

読書日記
「アカシアは花咲く」
デボラ・フォーゲル 作
(松籟社)

モンタージュの手法で書かれた独自のイディッシュ文学。ポストシュルレアリスムの実践。きらめくモダニズムの世界。日本翻訳大賞作品。

小説といえばそうだが、詩魂なき私としてもとりあえず散文詩として把握する。散文芸術。
誰か主人公が街を歩くわけではなく、ひたすら作者の視点で世界が描写される。ショーウインドウ・マネキン・トルソー・コンクリート・アスファルト。この道具立てと立体的な構成はまるで未来派のようだが、モザイク的な方法で組み合わされた一連の散文を追って、意味をつかんでいくことは正確には難しく、イメージに浸って絵画的な世界を味わうことも、そう簡単にはいかない容赦のなさがある。

唐突なコラージュは一見シュルレアリスムのようだが、確かに全く違うもので、作家の人間性を離れたもっと叙事的な感覚だ。
少し慣れてくるとけして難しいものではなく、我々の人生を構成する有機物や無機物の物質性を丁寧に噛み砕いて、ひとつひとつ人生を確認していく。この感触、この肌感覚に慣れれば楽しめるかもしれないが、かなり好悪が分かれるかもしれない。

「鉄の魂。平行に走る幸せなレールの魂。ネジとバネが痛々しく作動する上にある、集中して澄んだ、素晴らしい機械の魂。鉄の魂を持つ人間は、生の柔らかくてあやふやな風景を突っ切って進み、運命の暑苦しい諸事に巻き込まれることはない。」
「この金属製のざわめきは、物質のメランコリックなブロンズのうえに襞を作って横たわっていた。ビロードの観照的な黒の上に、そしてテラコッタ製の商標のついた物思いにふける物質のうえに。」
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